外伝1「さすらいの勇者1ー20」
「それにしても、あいつはとんだ唐変木ですわね」
タマーリンが話題を変えたので、サビエラはどう答えていいか判らず戸惑いの表情を見せる。
「あいつと言いますと?」
「無茶士ですわ、無茶士・・・普通あそこで走って追いかける場面だと思いますのよ。なのにその場に立って動かないのはダメダメですわ」
「あの、無茶士さんが誰を走って追いかければ良かったんですか?」
サビエラの疑問に、タマーリンがこいつもかという顔をする。
「サビエラ、あなたも相当な朴念仁ですわね」
「わたしがですか・・・わたし、そんなに朴念仁ではありません」
サビエラが心外だとばかりに怒る。
「あら、それならサビエラは無茶士が他の女性を追いかけている姿を見たいのかしら?」
タマーリンがイジワルそうに笑う。
「そ、それは・・・・・・」
黙ってしまうサビエラ。
「黙っていては判りませんわ、お答えなさいサビエラ」
強めの命令口調で問うたマーリンに、
「・・・い、嫌です・・・そんな姿見たくないです」
顔を真っ赤にして下を向くサビエラ。
「あらぁ、どうして嫌なのかしら?わたくし判らないですわあ」
わざとらしく大げさに判らない振りをする。
「そ、それは・・・わたしが無茶士さんの事を・・・・・・」
熟したトマトみたいに真っ赤になったサビエラは、下を向いたままスカートをぎゅっと握りしめる。
「ほほほほ、もっと自分に正直なりなさいサビエラ」
勝ち誇ったように笑うタマーリン。
「でも、それがあなたの正直な気持ちなんでしょ?」
素直に頷くサビエラ。
「でもサビエラ、それではダメですわよ。あの唐変木相手にそんな消極的では逃げられますわ」
「に、逃げられるって・・・」
逃げられると言われて焦るサビエラ。
「でも、わたしこう言うのはどうしていいか判らなくて」
モモエルのお付きをしていると、忙しくて恋をしている暇などない。
それに油断すると、モモエルが暴走するのでなかなかモモエルから目も離せなく、益々自分の時間が無くなってしまう。
当然、今まで恋愛経験は一度も無いのだ。
「わたくしも恋愛経験はないので偉そうな事は言えませんが」
タマーリンは見た目は超美人だが、その本質は王都では知れ渡っているので手を出そうという命知らずの男はいない。
そもそもタマーリン自身も恋愛感情は希薄なので、男に興味は皆無なのだった。
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