外伝1「さすらいの勇者1ー14」
「では、今度は声を出しませんからわたしの拳をよく見て当てて下さいね」
構えてから無言でヒットは拳を突き出す。
流石にタイミングが取れず、モリノクはうまく盾を合わせられない。
それでもヒットは何度も拳を突き出す。
「む、無理・・・です」
何度も繰り返す内に、ついにモリノクが音を上げる。
「無理?いいんですかそれで?出来なければ魔獣の餌食になるだけですよ」
「魔獣はぜ、前衛が防いでくれるんじゃ?」
ヒットは「実戦はそうはいかないですよ」と溜め息をつくと、
「出来る限りモリノク達の方には行かないように頑張りますが、魔獣の数が多ければ全部は防ぎきれません、一匹や、二匹通してしまう事もあるかもしれません」
ヒットの説明に、モリノクの顔が真っ青になる。
「そ、そんな」
「いいですか、モリノクはまだ盾を持っているので身を守れますが、キマシは杖だけです。目の前でキマシが魔獣の犠牲になったら一生モノのトラウマになりますよ、それでもいいんですか?」
モリノクはギリと杖の格闘戦を練習しているキマシの方を見た。
話すのが苦手で人に馬鹿にされてきた自分を、キマシとギリは普通に話しかけてくれるし、馬鹿にしたりしなかった。
そのキマシが自分の目の前で魔獣の犠牲になるなんて考えたくもない。
「俺、頑張る」
モリノクは盾を構え直した。
「よく言いました、では手加減無しで行きますよ」
そこからのヒットは容赦がなかったが、そのヒットにモリノクは歯を食いしばり食らいついていく。
「ヒットも容赦ないですけど、モリノクも頑張りますね」
もっと早く音を上げるかと思っていたモリノクが、ボロボロになりながらもヒットに食らいついていく姿に武茶士は感心した。
「守りたいモノが出来ると、意外と頑張れるモノですよ」
サンチョが微笑みながら語る。
「守りたいモノか・・・」
武茶士は少し考え込む。
「武茶士は守りたいモノは無いのですか?」
「急に言われても思いつかないな」
なんとか捻り出そうとしたが、考えれば考える程何も思いつかない。
「勇者様なんですから、世界平和とかどうですか?」
サンチョがからかうように笑う。
「世界平和・・・無理無理、俺はそんな大層な事考える柄じゃ無いから、そうだな、せいぜいミケラ様やマオが笑って暮らせる世界の為に頑張るくらいかな」
武茶士は柄にも無い事をい事を言った自分にちょっと照れるように笑う。
「いいんじゃないですか、ミケラ様の平和の為に戦うというのは勇者らしいですよ」
「そ、そうかな」
サンチョの意外な反応に戸惑う武茶士。
「姫は俺が守る」
横で虎次郎がライバル心むき出しで武茶士を睨む。
武茶士とサンチョはそれを無視する。
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