外伝1「さすらいの勇者1ー13」
ヒットはモリノクと組んでいた。
「モリノク、どこから掛かってきてもいいですよ」
ヒットが構える。
ヒットは普通の服の上から皮鎧のみの軽装備だ。
腕は怪我の予防の為の布が巻かれているだけの格闘スタイルだ。
対するモリノクは服装は法衣だけだが片手に棍棒、もう片方は盾というスタイルだった。
「じゃ、いく」
短く声を出すとモリノクは盾で身体を庇いながら棍棒を勢いよくヒットに振り下ろす。
ヒットは振り下ろされた棍棒を僅かに身体を捻るだけで避けると、身体を沈み込ませて下からモリノクの盾を持つ手に蹴りを入れる。
盾が大きく跳ね上げられと同時にヒットは跳ね上がり、がら空きになった胴体目掛けて回し蹴りが飛ぶ。
「ま、参った」
同時にヒットの回し蹴りはモリノクに当たる寸前で止められていた。
そのまま、モリノクはぺたんと尻餅をつく。
「モリノク、棍棒を大振りしすぎです。折角盾でガードしているのに、振り上げた瞬間に盾のガードがおろそかになっていますよ。盾をもっと牽制に使って、相手の隙を作ってから棍棒で攻撃するようにしましょう」
モリノクも前衛としての戦闘に慣れていないので、細かくチェックしながら問題点を指摘していく。
「た、盾ですか・・・どうやったらいいか判らねっ・・・判らないです」
言葉使いの方も慣れていないようだ。
「へ~~っ、ヒットって体が大きい割りにいい動きしますね」
「ヒットさんの筋肉は柔らかいからですよ、硬いとあんな動きで来ませんから」
サンチョが説明してくれる。
「そうなんだ」
「後で触らせて貰うといいですね」
男の筋肉に触るというは「ちょっと嫌」と思う武茶士。
「ヒットは身体を鍛えた後、柔軟体操を欠かさないからな」
いつの間にか、虎次郎も横に来ていた。
「いいですかモリノク、あなたは力があるので盾だけでも充分武器になります。タイミング良く魔獣の鼻先に盾を当ててやれば、それで魔獣は怯みますから。怯んだらすかさず棍棒で頭を叩く、いいですか?」
ヒットが戦い方を指南した。
「わ、判った」
「それではやってみましょう、わたしが拳を突き出すので、それを魔獣の鼻先と見て盾を当てて下さい」
「う、うん、判った」
「それでは行きますよ、最初は一、二のタイミングで出しますから」
ヒットは構える。
「一、二」
声に合わせて拳を突き出す。
最初の内はうまくタイミングが合わず、ヒットの拳に盾を当てる事が出来なかったが次第に当てられるようになってくる。
「上手になってきたじゃないですか」
「へへへへへ」
照れ笑いをするモリノク。
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