外伝1「さすらいの勇者1ー10」
「あれ?虎次郎が食べているそれは・・・」
虎次郎はお椀によそわれた白い粒状のモノを箸を使って食べたいた。
「そ、それはもしかしてお米、お米じゃないですか?」
武茶士が詰め寄るように虎次郎に聞くと、
虎次郎は僅かに視線を武茶士移しただけで、そのまま食事を続ける。
「こんなの、あそこに無かったですよ」
武茶士の問いに、
「虎次郎が自分で作った奴だからね」
虎次郎に変わってギリが教えてくれた。
聞けば、虎次郎が毎朝、外の竈を使って自分で炊いているそうだ。
「と言う事は、この世界にもお米はあるんですね」
武茶士は俄然燃えた。
生前は朝、昼、晩と米を食べないと体調が悪くなると豪語する程の、お米大好き人間だった。
ラーメンを食べる時もラーメンライスかチャーハンセットは定番、インドカレー店に入ってもナンは頼まずライスでしかカレーは食べない。
この世界に来て、
「もうお米は食べられないんだ」
と諦めていたお米が目の前にある。
「虎次郎、美味しいですか?それ美味しいですか?」
武茶士は食事中の虎次郎に詰め寄った。
虎次郎は迷惑そうな顔をしながら、
「うむ」
と軽く頷く。
「下さい、一口でいいですから。お願いします」
武茶士は今にも食い付きそうな勢いで虎次郎に迫る。
流石にこれには虎次郎も参ったようで、
「待っていろ」
と言って、自分の隣の椅子の上に置いてあるおひつの中からしゃもじでご飯をひと掬い取ると、虎次郎の皿の中に入れた。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
武茶士は虎次郎に何度もお礼を言ってから、席に着くとスプーンでご飯を掬い取る。
「本当はお箸が欲しい所だけど、それは後でなんとかするとして・・・先に一口、一口だけ。いただきま~~~す」
ご飯を乗せたスプーンを自分の口の中に運ぶ。
口の中に、竈で炊いた僅かにお焦げとご飯の香りが広った。
「この香り、この感触」
久しぶりの炊きたてのご飯を武茶士は噛み締めて食べる。
日本のお米程甘みも無く、粘りも少し足りない感じはしたが、それでも間違いなくお米の味だ。
諦めていたお米の味を噛み締めながら、
「美味い」
それだけ言うと、武茶士の目から一筋涙が流れた。
「おい、大丈夫か?」
ギリが心配して声を掛けて来る。
「だ、大丈夫です。久しぶりのお米で嬉しくて涙が出ただけですから」
「そうか?なんか困った事があったら言えよな、相談ぐらいはのるからからさ」
そう言ってギリは席に戻った。
「良く気がつく人ですね」
さっきも武茶士の顔が青くなった時、声を掛けてきたのはギリだった。
「ギリは斥候もやっているから、周りの事をよく見ているんですよ。口は悪いですけど、面倒見はいい人なんですよ」
「口が悪いは余計だろヒット」
ギリが席から怒鳴る。
「あはははは」
ヒットは誤魔化すように笑う。
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