外伝1「さすらいの勇者1ー7」
「わはははは、冗談だよ冗談」
チェンは豪快に笑って冗談と言ったが、女性二人からの視線がまだ冷たい。
「本当に冗談だから、俺とドンが昔同じ班になってだな・・・ある日出撃した時に、ドンと俺だけになっちまって、お互いにかばい合いながらなんとか生き延びた事があったんだよ。それだけだ、それだけの話なんだよ」
必死に説明したチェンだったが、
「お互いにかばい合ってだって・・・」
「吊り橋効果って奴じゃない」
一瞬見つめ合って、
「きゃ~~~」
黄色い悲鳴を上げる二人。
「お、お前らな、いい加減にしねえと怒るぞ」
本気でチェンが怒り始めたので、
「ごめん、ごめん。冗談よ」
「えへ」
舌を出す二人。
「チェンさん、お久しぶりです。宜しかったら皆さんをご紹介して頂けないですか?」
「おう、サンチョか。久しぶりだな、紹介か・・・こっちの背の低い方がキマシだ。後方支援専門の魔法使いだ。ほら立って挨拶しろや」
キマシと呼ばれた女性は席から立ち上がり、
「キマシ・タワーって言います。強化魔法や足止めの魔法が得意です」
ペコッと頭を下げる。
「来ましたわ~って、おいおい」
名前を聞いて、武茶士は歌いながら戦う少女アニメを思い出していた。
「あたしはギリ・・・ギリ・ギリヤ。ナイフ使いだ。あたしやキマシに変な真似したら、このナイフで切り刻むからな」
呼ばれる前に赤毛で細身の女性が立ち上がり、腰から素早くナイフを抜く。
「ぎりぎりやって、関西の方でっか」
心の中ですかさずツッコミを入れる武茶士。
「あっ、お・・・拙僧はモリノク・マサンと言う・・・ます・・・あっ、僧侶です、回復します」
法衣を来た背の高い男が立ち上がった。
僧侶と言いながら法衣から覗く体付きはかなり良い。
「確かに森の熊さんという体格だよな」
モリノクの体格を見ながら納得する武茶士であった。
「そして俺様はチェン・ソーマだ、この隊の隊長をやっている」
そして虎次郎も立ち上がり、
「俺は・・・」
「知っているからいいです」
三人口を揃えて拒否る。
「ガ~~ン」
と落ち込む虎次郎。
「ちょっとちょっと、虎次郎さんて案外繊細な所があるからさ。話聞いて上げなよ」
ギリが三人に耳打ちする。
「た、確かに」
草原で出くわした時に、タマーリンにからかわれて落ち込む虎次郎の事を思い出す。
「ここは聞いた方が良いかも」
「そうですね、機嫌を損ねるのも得策では無いですから」
「手の掛かる奴じゃのう」
三人はひそひそと話し合ってから、
「あ~俺、虎次郎の紹介聞きたいな」
「わしも聞きたいのじゃ」
「ぼ、ボクも是非聞きたいなぁ」
白々しい声で虎次郎に自己紹介を求める三人。
虎次郎はピクッと耳を動かし、そんなに言うなら仕方ないなとばかりに、
「俺は佐々木虎次郎だ!」
どうだと言わんばかりのどや顔で名乗りを上げる。
「それだけ?」
「名前は知っているから他の事をいわんか!」
「そうですよ、せめて武器は何を使うとかは言わないとダメでしょ」
ぼろくそだった。
「うぅぅ・・・」
しばし唸った後、両手を振り回して虎次郎はぽかぽかと武茶士を殴る。
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