外伝1「さすらいの勇者1ー5」
「俺、宮本武茶士と言います。この砦に来るのは初めてでして、ご指導ご鞭撻、宜しくお願いします」
営業で培った挨拶を反射的する。
「ボクはヒット・トーリと言います。こちらこそ宜しくお願いします」
ヒットも武茶士と同じように頭を下げる。
「ヒットよ、聞いて驚くな。この武茶士は勇者様じゃぞ」
「えっ、勇者様ってお伽噺に出てくる?」
ヒットは目を白黒させて驚く。
「らしいです、と言ってもタレントって言うんですか、そのタレントが勇者なだけなんですけど」
この砦にはケットシーは大勢いる、タレントと呼ばれる力がケットシー達に特殊な能力を与えている事はヒットもよく知っていた。
「凄いじゃないですか、勇者のタレントなんてきっと超レアですよ」
ヒットがキラキラして目で武茶士を見る。
(あははははは・・・本当は最強勇者なんだけどちょっと言い出し難くなったな)
武茶士は心の中にしまっておく事にした。
「更に聞いて驚け、この武茶士は異世界からの転生者なのだぞ」
「えっぇぇぇぇ!」
ヒットは更に驚きの声を上げる。
その声に、歩いていた人々「何事ぞ」と足を止めてヒットの方を見たが、
「なんだヒットか」
の一言で食堂の方へ歩き始めた。
「本当なんですか?本当なんですか?」
武茶士の肩を掴んで揺さぶるヒット。
「ほ、本当です。と、取り敢えず揺さぶるの止めてくれますか?」
「あっ、すみません、すみません」
ヒットは慌てて掴んでいた武茶士の肩を離すと、何度もペコペコと頭を下げた。
その姿を武茶士は可愛いなと思ってしまう。
がたいはごついが憎めない愛嬌さを感じたのだ。
「頭を上げて下さいよ、俺だって転生者なんて聞かされたら驚きますから」
それから武茶士は自分が転生してきた経緯を語る。
「木から下りられなくなった子猫を助けて・・・」
ヒットは更にキラキラした目で武茶士を見つめていた。
そんな目で見られたのは草原で助けて貰ったミケラ以来なので、武茶士は少し背中がむず痒くなる。
「それで、それで、その子猫は?」
「助かったそうですよ」
それを聞いたヒットは嬉しそうに大きな口を開けて笑うと武茶士の手を握り、
「良かったですね、良かったですね」
手を握ったまま手を振る。
心の底から子猫の無事を喜んでくれているヒット・トーリを、ますます武茶士は好きになった。
「良かったですね、良かったですね」
当のヒットはドンやサンチョの手も握って回っていた。
「ヒットよ、それくらいにして食堂に行かんか?」
ドンの一言に、
「そうでした、つい嬉しくなって。ボクが案内しますよ」
ヒットが先頭に立って一同を食堂に案内する。
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