外伝1「さすらいの勇者1ー3」
明け方近くに馬車は砦に着く。
「着きましたよ」
案内の男が馬車の扉を開ける。
馬車の中で三人は完全に寝こけていた。
「やれやれ」
男がどうやって起こすか思案している最中、後ろから手が伸び、
「起きろ」
と中の三人を瞬く間に馬車から放り出す。
乱暴に馬車から放り出されてようやく目を覚ます三人。
「ちょっと、何するんですか」
腰をさすりながらあまりにも乱暴な扱いに怒る武茶士。
「ここは既に戦地、気を抜くな!」
気迫のこもった低く激しい声が発せられた。
「えっ、虎次郎?」
相手が虎次郎だと気がつき、驚く武茶士。
「迎えに来てくれたんですか?」
「うむ」
小さく頷く虎次郎。
「すみません、お恥ずかしい所を見せてしまったようで」
武茶士は立ち上がると礼儀正しく頭を下げた。
「気にするな」
それだけ言うと虎次郎は歩き出す。
「着いてこい」
荷物を持って慌てて虎次郎の後を追う三人。
砦の門を通り中をスタスタと歩く虎次郎と、その後を追う三人組。
早朝とあって見張りの兵士以外は人影はない。
「思ったよりキレイですね」
武茶士は歴戦の砦と聞いていたので、もっと薄汚れた使い古されたイメージを持っていたのだ。
「そうだな」
虎次郎は短くそう答えるだけだった。
「魔獣に襲撃され壊された部分は直ぐに修理されるんですよ」
「ケットシー達の建築技術は凄いからのう」
武茶士は鬼ごっこの時も、櫓を瞬く間に作ったことを思い出す。
「これだけあちこち新しいと言うことは・・・」
「それだけ厳しい襲撃を受けたという事じゃ」
ドンの言葉に息を飲む武茶士。
「俺、生きて帰れるのかな?」
武茶士の心配を他所に、虎次郎は無言で歩き続ける。
砦の中にいくつかある建物のひとつに入ると、とある扉の前で虎次郎は止まった。
「この部屋を使え」
どうやら武茶士達の部屋のようだ。
「お邪魔します」
部屋の中に入る。
部屋はあまり広いとは言えなかったが、二段ベッドが両側にあり、窓際に机と椅子も置いてあり、簡素ながらそれほど悪い部屋ではなかった。
「荷物はここに入れておけ」
入り口の横の扉が荷物入れになっていた。
「風呂、トイレ、食事は共用だ」
虎次郎は外へ出てざっと説明する。
「あと一時間で朝飯だから、この先の食堂に来い」
虎次郎は食堂の方向を顎で示し、さっさとどこかへ消えてしまった。
「相変わらずですね旦那は」
「うむ、剣の腕は確かなんだがもう少し話が上手ならばな」
サンチョとドンは虎次郎の後ろ姿を見送る。
「お二人とも虎次郎をご存じなんですか?」
「奴が来たばかりの頃だから、半年くらい前か?」
「そうですね、王様に剣の腕の立つ者をミケラ様が拾ってきたからと紹介されました」
ミケラが拾って来たと聞いて武茶士は苦笑いをする。
自分もミケラに拾われた口だったからだ。
「どうかしました?」
サンチョが武茶士の苦笑いを不思議に感じて聞く。
「俺もミケラ様に拾われもんで」
武茶士は自分がミケラと出会ったときの話を聞かせた。
「ほう、転生して出た先が王都近くの草原ですと、それで草原で道に迷っている所をミケラ様に拾われたと。判る、判りますぞ・・・初めての土地、それも異世界となれば戸惑って道に迷うのは当然」
「判ってくれますか」
「はい」
「同士よ」
武茶士とドンはがっしりと手を握り合った。
「もしかして、こいつら同類?」
サンチョは嫌な予感しかしなかった。
そして、その予感は見事に的中するのだった。
後書きです。
ついに始まりました外伝。
本編と違ってバトルシーンやムフフなシーンも有ります。
「ちょっと、いい?」
「なんですかミサケーノさん」
「あんだけ引っ張っておいて、なんで外伝は私の話じゃないの?」
「そ、それはその…あのですね(その場の勢いで作ったので、細かいことは何も考えていないなんて言えない)」
「いいわよ、話し合いましょう(拳で)」
「ぎゃぁぁぁ、お助けぇぇぇ」
こうして作者はミサケーノに引きずられって行った、アーメン<(_ _)>
また来週\( 'ω')/
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