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6話「お妃様の陰謀 114」

 時間は少し遡り、ロレッタ達が楽屋を出て行った直ぐ後。

「ていっ」

 お妃様が再びタマンサの頭にチョップを入れた。

「痛い、何するんですか」

「なにって、歌姫は使うなっていつも言ってるでしょ。あんたは歌だけで充分に勝負出来るんだから」

「使ったのは最初と最後だけだから、知らないステージで最初にお客のハート掴んだ方が後が楽なのは知ってるでしょ?散々、わたしとあちこち回って歩いたんだから」

「それはそうだけどさ」

 お妃様は口ごもる。

「それに、最後のあの場面はみんなに感動を届ける為には必要だったの、聞いている人たちに少しでも喜んでもらえるなら歌姫だってなんだってわたしは使うから」

 観客に喜んでもらう事に貪欲なタマンサに、

「本当にあんたは変わらないね」

 と笑うお妃様。

 そこへロレッタが戻ってきた。

「あら、ミケラとサクラーノは?」

「モモエル様達に預けてきた、母さんだけにしておくとまたやらかすから戻ってきたの」

「ひっどい、それがお母さんに言う言葉」

 タマンサは頬を膨らませる。

「お母さんて、その子もお前の子供かい?」

「うん、長女のロレッタ・・・ロレッタ、こっちは私のお父ちゃんとお母ちゃん。お前のおじいちゃんとおばあちゃんだよ」

「おじいちゃん?おばあちゃん?」

 ロレッタは少し戸惑うが、直ぐに気を取り直して、

「ロレッタと申します、おじいちゃん、おばあちゃん初めまして」

 王宮で習った挨拶を披露する。

「立派なもんだね」

 タマコの夫、タマポーロが感心する。

「どこかに礼儀でも習いに行っているのかい?」

 タマコが尋ねる。

「この子、ミケラの面倒を見る為に王宮に通っているから、そこで身に付けたのよ」

 その話を聞いて再びタマンサの両親はお妃様の方を見た。

 がタマンサは、

「非道いのよ、まだ五才のミケラをわたしから奪っていったんだから」

 タマンサはお妃様の方を睨む。

「タマンサ、およしよその話は」

 タマコがオロオロとしてタマンサを止めようとするが、

「ミケラはもうお城に帰さない、家に連れて帰るんだから。ずっとわたしと暮らすんだ、暮らすんだ」

 最後の方は子供のような駄々をこね始める。

「母さん、もうその話は」

 一年以上前に納得してミケラは帰したはずなのだ、でもタマンサの心は納得しきれずに・・・

「だってわたしがおっぱい上げて大きくしたんだもん、おむつだって二人分一生懸命代えて大きくしたんだもん」

 ミケラとサクラーノの面倒をタマンサは本当によく見た。

 寝不足と疲労で何度も倒れかけた事があったのは、ロレッタは見てきた。

 モモエルと倉庫の女将さんの助けが来なかったら、間違いなくぶっ倒れていただろう。

「本当にこの子は情が深いよね。あんなに好きだった歌を、好きな男の為にすっぱりと止めちゃう子だから」

 すすり泣くタマンサの頭をお妃様が優しく撫でる。

「本当にごめんなさい、一番大変な時に全部あなたに押しつけた挙げ句、あなたから奪ってしまった、わたしを許しておくれでないかい」

 お妃様はタマンサに頭を下げる。

「いや、ミケラはわたしの子だもん、いやいやいや」

 また、子供のように駄々をこね始める。

「か、母さん」

 ロレッタが慌てて止めようとするが、お妃様がそれを手で制する。

「判った、ミケラはタマンサの子でいいよ」

「本当?」

「ああ、でもわたしにも少しは親らしい事をさせておくれでないかい?」

「うぅぅぅ・・・判った、お妃様だって身体を張ってあの子を産んだんだものね」

 案外あっさりとタマンサは折れた。

「いいのかい、それで」

「うん」

 すっきりした顔でタマンサは笑う。

「母さんてそんな所有るよね、父さんに散々我が儘言って困らせた挙げ句、さっきまでの騒ぎはなんだったのって言うくらい態度が変わる事が」

「この子ね、小さい時から欲しいものがあって駄々をこねた時に欲しいものを上げると、あっさりと機嫌が直るのよ。本当に掌を返したぐらいにあっさりと」

 タマコが笑う。

「お母ちゃん、娘の前で恥ずかしい事言わないでよ」

 タマンサの顔が真っ赤になる。




「ちょっといいか?」

 クッロウエルが楽屋に戻ってきた。

「おやクッロウエル、何か用事かい?」

「お妃様、俺は腹をくくったぜ」

 それだけ言うと、タマンサの前まで来て、

「済まねえタマンサ、俺を許してくれ」

 深々と頭を下げる。

「クッロウエル様、ジョセフの事は・・・あの人の事はクッロウエル様が悪いんじゃないって判ってます、だから頭を上げて下さい」

 ジョセフは亡くなったタマンサの夫の事だ。

「いや、ジョセフを砦に送り出したのは俺だし、ジョセフの奴が死んだ後にお前達が苦労しているのを知りながらモモエルを手伝いに出す事しか出来なかった」

 苦々しい顔でクッロウエルは過去を振り返った。

「モモエルが手助けに来てくれたのは本当に助かったから、それで充分ですよ。いつまでも引きずらないで下さい、クッロウエル様」

 タマンサはクッロウエルの手を取る。

「ありがとう、少しは心が軽くなった」

 クッロウエルはこわばった表情でなんとか笑おうとする。

「それでお妃様。俺はよ、研究所に戻るぜ」

 お妃様の方に向き直るなりそう宣言する。

「所長に返り咲くのかい?」

「いや、所長はモモエルでいい。庭に飛んできたあいつ、あんモノ俺には作れねえ。俺みたいな古い職人の時代は終わったんだと思い知らされたよ」

「じょあ、どうするのさ」

「モモエルを支える側に回る、あいつにはまだまだ伸びしろがあるからな。どこまで伸びるか側にいてこの目で見てみたくなった」

 さっきのこわばった笑顔とは違う、心の底から嬉しそうにクッロウエルは笑う。



 一方、楽屋の隅では、

「ぼく、さっきからここに居るのに誰も気がついてくれない」

 トランスロットがぽつりと呟いた。


後書きです


今回は変則的投稿ですみません。

どうしても読んでもらいたい塊で投稿したのでこうなりました。

作者としてのワガママです。

6話も多分来週で終わる・・・終わると思う・・・終わるといいな


ではまた来週(^_^)/~


                     (Copyright2023-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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