6話「お妃様の陰謀 113」
「と言う事だ白虎」
「俺の居る事に気がついていたんですか旦那」
暗がりから白虎が姿を現す。
「お前がガキの頃からの付き合いだぜ」
白虎が幼年学校にいる頃から、たまにクッロウエルが様子を見に来ていたのだ。
「将来、使い物になる奴がいるか見に行っていただけだががな」
魔法道具研究所の警護や、資源の発掘など依頼しているので、気になってたまに見に行っていたのだ。
「何故、ここに居る?」
「ほら、白妙と黒妙がステージに立つって聞いたんでちょ、ちょっと持ち場を変わってもらって・・・」
娘二人の晴れ舞台を見に来たようだ、相変わらずの娘バカであった。
「今の話聞いたな、今すぐ忘れろ」
「流石に、はいって言える程俺の頭は便利に出来てないですよ」
おどけてみせる白虎。
「じゃあ、どうすんだ?」
「どうすると言われてもタマーリン絡みでしょ、また里でタマーリンに暴れられても困りますから」
あの事は今でも忘れられない事だった。
八才の子供に手も足も出ず、幼い我が子の手を引いて逃げる事しか出来なかったあの時の事を。
忍びの里が本気になれば、どこの軍隊でも手出し出来ないと自負していた、それがいとも簡単にへし折られたのだ。
タマーリンには迂闊に関わるなが、今の里の不文律となっている。
「正直、もうタマーリンには里に近寄って欲しくないですよ」
それから白虎はクッロウエルの目をしっかりと見ると、
「てことで、俺は何も見ていなければ何も聞いていない・・・これでいいんでしょ」
クッロウエルは黙って頷く。
「後は旦那に任せましたからね、間違ってもタマーリンが怒って里に殴り込みするなんて事にだけはならないようにして下さいよ」
切実な声でクッロウエルに頼む。
八才の頃のタマーリンにすら手も足も出なかったのだ、今のタマーリンが本気になれば里などあっという間に火の海に沈む事になる。
それだけはなんとしても避けなければならないのだ。
「里長だってな、タマーリンには二度と関わり合いたいなど思っておらんさ」
クッロウエルは言い切る。
「そうですか、じゃ、頼みましたよ」
白虎は移動工房から出ると持ち場に戻って行く。
「さてと、俺も腹をくくる時かな」
クッロウエルも移動工房を後にした。
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