6話「お妃様の陰謀 108」
王都に着いたミサケーノは、最初の内は騎士団と共に王国内の町や村を助けて回っていたが、次第に共に歩む仲間が出来、騎士団を離れると仲間達と共に独自の行動を始めた。
時には勇者一行と旅を共にし、時には魔物の軍勢に取り囲まれ孤立した部隊を助ける為に駆けつけるなど、方々で活躍を続けていく。
そして、運命の時、
勇者一行が魔王の居城についに攻め入ったのだ。
「トラジー君だけずるい」
とミサケーノ一行も続く。
因みにトラジーとは勇者の名前、ミサケーノは超仲良しと思っているが・・・
それからしばらくして、勇者と魔王の戦いは始まった。
勇者と魔王の力は拮抗し、互いに攻めきれずにじりじりと消耗戦を続けていたのだ。
勇者の仲間達は魔王の手下達に阻まれ、魔王の手下達も勇者の仲間達の足止めをするのが精一杯でどちらも助けに行けないでいた。
「爆速改心パンチ」
その拮抗を破って、ミサケーノが爆速パンチで勇者の仲間達も魔物達も吹き飛ばして突き抜けてきた。
「トラジー君、助けに来たよ」
魔物も勇者の仲間達も吹き飛ばしてやって来たミサケーノに勇者も魔王も目が点になる。
「ミサケーノ、ボ、ボクの仲間に何をするんだ!」
「予の部下達に何をするんじゃ!」
戦うのも忘れてミサケーノに食って掛かる勇者と魔王。
「ちょっとした事故よ、事故」
悪びれずニコニコ笑うミサケーノ。
「これを事故って言うか普通!」
死屍累々、多くの魔物と勇者の仲間達が床に倒れ伏している。
「失礼ね、わたしの改心パンチはめちゃくちゃ痛いけど当たると同時に回復しているから誰も怪我してないもん」
「なんじゃそりゃ!」
魔王は激高する、それはそうだろう。実際に床に倒れた部下達はピクリとも動かないのだから。
「小娘、貴様から先に成敗してくれる。予を本気で怒らせた事を後悔してももう遅いぞ」
魔王は地獄の底から響くような不気味な高笑いを上げる。
普通の精神の持ち主ならその声を聞いただけで正気を失う程の狂気の笑い声を浴び、勇者はなんとか耐え、ミサケーノはケロッとしていた。
「くっ、魔王、やっ、やめろ。彼女に手を出すな・・・こ、後悔する事になるぞ」
勇者は魔王を止めようとしたが、
「勇者、貴様とは後で遊んでやる。そこで大人しく見ているがいい」
とにべもない。
「ふぬぬぬぬ」
魔王は闘気を高める。
「トラジー君、わたしやっちゃっていい?」
ミサケーノが勇者に聞く。
やる気満々、ミサケーノがこうなったら誰の話も聞かないので勇者は、
「やっちゃっていいです」
と諦め顔で答えた。
「やった!」
喜び跳ねるミサケーノを、魔王の翼から闘気の塊が放たれ吹き飛ばす。
闘気に吹き飛ばされ数十メートル飛んだ後、何度も激しくバウンドしてからミサケーノの身体はようやく止まる。
「ふっ、たわいも無い」
「魔王、あの程度じゃミサケーノは傷ひとつ付かないから」
勇者の忠告に、
「馬鹿者め、あの小娘は予の攻撃を受けて動かないでは・・・」
むっくりと起き上がったミサケーノを見て魔王は言葉を切る。
「ちょっと、トラジー君。あなたどっちの味方なの?」
怒るミサケーノ。
あれだけ派手に床でバウンドしたにもかかわらず、傷ひとつ付いていなかった。
「君の味方だけど・・・今、魔王の味方をしたくなってきたような・・・」
勇者は目を逸らし最後の方は言葉を濁す。
「いいわよ、君がそう言う事言うなら後で話し合いましょう・・・拳で」
「ちょっと落ち着こう、なっ、なっ」
超慌てる勇者。
「ところで魔王」
ミサケーノに呼ばれ、
「なんじゃ小娘」
「今のどうやったの?」
キラキラした目で魔王を見るミサケーノ。
その目を見た瞬間、勇者は、
「魔王、逃げろ。ひどい目に合いたくなかったら今すぐ逃げろ」
と言いながら勇者は全速力で走って逃げる。
「ちょっ、勇者。どうしたのじゃ?」
突然の事に戸惑う魔王。
「こうかな?」
ミサケーノは魔王がしたように気合いを貯めてパンチを繰り出す。
ミサケーノの拳から放たれた闘気の塊が魔王の身体をかすめて魔王城の壁に当たり、壁を盛大に吹き飛ばす。
「やった出来た!わたし凄い、わたし天才」
初めてやって出来たので、嬉しくてうかれまくるミサケーノ。
「お~い魔王、うかれたミサケーノは何するか判らないから早く逃げろよ」
危険の及ばない所まで逃げてから勇者が叫んだ。
「逃げろと言われて、はいそうですかと言えるか。それに、あの小娘は予を逃がす気などまるで無いようじゃからな」
「ならば」
魔王はミサケーノを迎え撃つべく、構えを取った。
「じゃ、行くよ」
魔王が逃げずに構えたので更に喜ぶミサケーノ。
「爆速改心いっぱいパァァァァァァンチ」
ミサケーノは爆速で走り出すと同時に、闘気のパンチをバルカン砲の速度で連続して放った。
「な、なんじゃこれは」
今覚えたばかりの技をさも当たり前のように、超高速で連発するミサケーノの攻撃に焦る魔王。
さしもの魔王も連発される闘気のパンチを防ぐの精一杯だったのだ。
あまりにも超高速で繰り出されるので回避すら出来ずに防御する魔王に、ついにミサケーノの本物のパンチが炸裂した。
「ぐわぁぁぁぁ」
吹き飛ぶ魔王。
「改心完了。よっし、今日もいい汗かいた」
爽やかな笑顔でVサインを決めるミサケーノ。
「だから彼女に手を出すなって言ったのに」
ぼそっと呟く勇者トラジー。
「予はいったい?」
ミサケーノの仲間達に介抱され、魔王は目を覚ます。
「魔王様」
「魔王様」
魔王の部下達も魔王が目を覚ましたのを喜ぶ。
「お前達、無事だったか」
「だから言ったじゃない、わたしのパンチは痛いけどちゃんと怪我は治すんだって」
言われて魔王も自分も怪我ひとつしていないのに気がつく。
「そうか、予の負けじゃ。お前には剣は不要じゃろうから、これから予がお前の盾となろう」
「こうしてぇぇぇぇ、魔王はぁぁ、ミサケーノの盾となったぁぁぁぁぁ」
宿泊客は拍手喝采。
「何故じゃ、何故、予は泣いておるのじゃ?」
タマンサの歌を聞いていて、マオはいつの間にかボロボロと涙を流している自分に気がつく。
「判らぬ、何故予は・・・それに」
先ほどからミケラとサクラーノの間に激しく光が飛び交っていた。
マオにしか見えない光なので誰も気がついていなかったが。
ミケラやサクラーノすら知らない事なのだ。
タマンサの歌は進み、終盤へと向かう。
強い力を持つミサケーノもやがて年老い、天寿を迎えようとしていた。
唐突にタマンサが歌を止め、上を向く。
上向きながら、ゆっくり深く呼吸して声を貯めていく。
「ここで!」
抑えていた歌姫の力も全解放。
前を向き声を発しようとしたその瞬間、ミケラとサクラーノが上を向くとカッと目を見開いた。
唐突にタマンサの身体が七色に輝き始める。
「うぉぉぉ」
突然の事にどよめく宿泊客達。
そのざわめきをかき消すが如く、ゆっくりと、そしてタマンサの細い身体のどこから出ているのか判らない程、力のこもった優しい歌声が広間に響き渡る。
「面白い人生だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
それがミサケーノの最後の言葉だ。
宿泊客もスタッフ一同もボロボロと涙を流しながら拍手をしていた。
後書きです
すみません、すみませ ん、長い話になって本当にすみませんる
ミサケーノの話を書いていたら面白くてキーボード打つ手が止まらい、やっべー
天からアイディアがホンボン降ってくる、やっべー
ということで長くなってしまいました。
どうしてもここは最後まで読んでほしかったので。
ミケラ、サクラーノ、マオの関係の種まきもしたかったので。
ではまた来週(^_^)/~
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