6話「お妃様の陰謀 104」
ミケラが「きゃはは」と笑いながら飛び回っているのを見ながら、マオはそれどころではなかった。
うかれてドンドン速くなっていくミケラを落とさないようにする為、必死になって円盤を操作していたのだ。
ミケラは影移動する瞬間に見た影にしか移動出来ない、ミケラの視線に気をつけていればどこから飛び出すかは予想が付くので、その下に向けて円盤を動かしておけばいい・・・
いいはずだったのだが、うかれきったミケラは影移動する瞬間に視線を変更する事もしばしば出てきたのだ。
「うぉぉぉ」
その度にマオは雄叫びを上げて、思わぬ所から飛び出してきたミケラの下に円盤を動かすのだった。
「ミケラ、いい加減にするじゃ」
と心の中で叫ぶ。
広間はステージである程度の大技も披露出来るように天井は高めに作られている。
と言っても他の部屋に比べてでしかない。
その天井に飛び出してきたミケラが頭をぶつけないように、円盤の高は常に注意をしなければならない。
更にうかれたミケラが影移動の速度をガンガン上げ、気まぐれにあちこち飛び回るのでマオの疲労は半端なかった。
顔から汗を大量に流し、肩で荒い息をし、顔色も青ざめ始めていた。
「キティー」
慌ててモモエルはキティーを呼ぶ。
呼ばれて舞台の様子を見たキティーは大慌てで幕の後ろを走り、幕の隙間からそっと覗き込むとマオに疲労回復魔法をかける。
日頃、魔法道具研究所で生きるゾンビと化した研究員を研究に復帰させてきた魔法の効果はてきめんで、青かったマオの顔に生気が蘇る。
「元気が戻った、助かったのじゃ」
円盤の操作に集中していて、何故、自分が突然疲労が回復したのか考える余裕はマオにはなかったが、これでまだ円盤の操作ができるという事は理解出来た。
「ふう、間に合った」
幕の裏でほっとするキティー。
まだ舞台は続いているのでここでマオのバックアップをすることにした。
「さっき四人に使って、これで五人目」
キティーは残りの魔力の計算を始める。
「もし、ミケラ様が下に落ちてケガをしたら、その治療の為に多めに残しておきたいから・・・」
最悪の事態を想定して計算していく。
「少し足りないかも」
ここでどれだけ魔力を消費するのか計算出来ない。
出来れば消耗したくないが、マオの疲労が溜まれば操作を間違えるかもしれない。
あれこれ優先順位を考え、
「なら」
キティーは肩から提げて小さなピンクのポーチから魔力の回復効果のあるアメを出して、口の中に放り込む。
「ほんと、このアメ美味しくない」
味は最悪とまではいかないがあまり舐めたい味ではない。
「贅沢は言っていられないし」
それからキティーは時折、マオに疲労回復魔法を使った。
この方が効果が高いのだ。
疲労困憊した相手に使うとごっそりと魔力を削られてしまうが、疲れ切る前なら魔力の消費は少なくて済む。
「いつも皆さんには疲れ切る前に来てと言っているのに」
研究員の誰一人としてキティーの言うことは聞かず、倒れる寸前まで研究してキティーの所に来る者しかいなかったのだった。
研究バカというのはそんなモノなのだが、まだ研究所に来て日の浅いキティーには理解出来ないことの一つなのだ。
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