転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その2
「でも、スライムやクモや剣に転生しなくて良かった。こうして人間の・・・」
と自分の手を見て固まってしまう。
手の部分は紛れもなく五本指の人間の手だったのだが、手首から上は毛で覆われていたのだ。
「あれ?あれ?あれ?」
慌てて自分の身体をあちこち触ってみる。
顔は触った感じは人間ぽい、耳は顔の横に無く頭の上に三角の耳が二つ。
身体は服の下までしっかりと毛に覆われ、何よりお尻に猫尻尾が生えていた。
「なんじゃこりゃぁぁぁ!」
頭が一瞬パニックになったが、ケットシーという言葉が唐突に頭の中に閃く。
「ケットシー、そうか俺は猫の妖精に転生したのか」
そうと判った瞬間に覚悟が決まった。
「こうなったらここで生きてくしかないしな」
覚悟が決まり落ち着くと、色々なことが頭の中に湧いて来る。
「そうか、俺はこの世界では宮本武茶志と言うのか・・・なんか微妙な名前だよな?武蔵なら良かったのに武茶志?毛が少し茶色いぽいからか?」
と溜息をつきつつ、ケットシーには生まれながらタレントと呼ばれる特殊な才能を一つ付与され、自分のタレントが最強勇者だと言うことも判った。
「最強勇者って何だ?異世界で勇者って言ったらやっぱ魔王と戦うのかな?」
子供の頃遊んだ通称ドラファン、ドラゴン・ファンタジーの事を思い出して少しワクワクする。
「他になんか無いのかな?」
と辺りを見回すと、草むらの影に皮のナップザックと剣が落ちているのを見つけた。
「勇者様の最初の装備としてはこんなモノか、銅の剣かな」
シリーズ物だったドラファンの初期装備は大抵、銅の剣に布の服だった。
今、自分が着ているのは普通の服のようなので流れ的に銅の剣と思ったのだ。
武茶志はナップザック中身が日用品と食料なのを確かめてから背負うと、剣を抜く。
「おお、鉄の剣だよ」
抜いた剣は銅では無く鉄の剣だった。
「いきなり鉄の剣なんて待遇良くない?」
思っていたより良い剣だったので武茶志は少し気が大きくなる。
「少し振ってみるか」
高校の修学旅行で木刀を買い振り回し、二・三度振っただけで音を上げたのと比べると、まるで紙で出来たおもちゃの剣のように軽く振れた。
「おお、これが勇者の力か」
面白くなってしばらく剣を振り回していたが、だんだん飽きてくる。
「他になんか出来るのかな」
慣れない剣をなんとか鞘に戻すと、剣を手に持って走ってみた。
「おおすげぇぇぇ!」
自転車、それもロードバイク並みの速度で走る自分に驚く。
走ったままジャンプすると、高々と5メートルほどの高さまで上がり、そのまま難なく着地する。
「勇者すげぇぇぇぇ」
そのまましばらく草原の真ん中でバカみたいに笑った。
「で今回の話はさ、草原に変な奴がいるんだってさ」
「そうじゃん、剣を振り回したり、いきなり走り出してジャンプして笑い出す変な奴じゃん」
「四露死苦、四露死苦」
妖精達が持ってきた話は、城下の近くの草原に変な奴がいるという話だった。
(Copyright2022-© 入沙界 南兎)