表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
249/589

6話「お妃様の陰謀 101」

「ありがとう、サクラーノ」

 心の中でサクラーノに感謝しながら歌い始める。

「貴族の子息アサンテ~、平民の娘シャルロッテ~」

 綺麗な清んだ声が広間に響き渡った。

 タマンサが歌い始めたのは、ウーディント王国で広く歌われている恋の歌だった。

 貴族の息子と平民の娘が恋に落ちる話で、ウーディント王国では女性に圧倒的人気の歌なのだ。

 サクラーノが引っ張ってきたのは男女が向き合う刺繍の入った幕。

 宿にあった刺繍の入った幕からそれっぽいモノを選んだだけなのだが、宿泊客はそれで充分のようだ。

 広間全体に響き渡る声でタマンサは貴族の息子と平民の娘の出会いから、二人が恋に落ちていくまでを歌い上げる。

 騒いでいた宿泊客も次第に静かになり、特に女性客達は熱い視線でタマンサを見つめていた。

 別に、歌姫の能力を使ったわけではない。

 この歌はタマンサが得意とする歌の一つであり、今までに何百回も歌い女性客の心を鷲掴みにしてきたのだ。

 歌姫の能力に頼る必要などない。

 女性客の熱い視線に微笑むタマンサ。



「サクラーノ、次」

 トランスロットがサクラーノに結ばれていたロープを手早くほどくと、別のロープを結び直す。

 これも背景の描かれた幕に繋がっている。

 じっと待機するサクラーノ。

 タマンサは初めての恋に二人が戸惑いギクシャクしながら、次第に二人の気持ちが盛り上がっていく様を歌い上げる。

 サクラーノの方を向き、タマンサが手を伸ばす。

 合図だ。

「サクラーノ」

 トランスロットがサクラーノの肩を叩く。

 同時にサクラーノが全力疾走して、クッロウエルが押さえているマットレス目掛けて突っ込んでいく。




 二人の恋は燃え上がり、頂点に達したと思われた瞬間、幕は一転して暗い背景へと変わった。

 幸せの絶頂にいた若い二人の試練の訪れを告げたのだ。

 来たかと固唾を飲む宿泊客達。

 何度も聞いた歌なのでここから先の展開もよく知っている。

 両方の親からの激しい反対、身分違いだと二人を責める周囲。

 方々でののしられ、嫌がらせを受け二人は次第に追い詰められていく。

 それでも互いを庇い、支え合う二人。



 そんな二人の姿を朗々と歌い上げるタマンサ。

「やめて、やめてちょうだい」

「なんで二人の邪魔をするの」

 女性客の中には涙さえ浮かべる者すら出始めていた。



「サクラーノ、次よ」

「うん」

 モモエルがロープを結び変え、タマンサの合図を待つ。

「来た」

 タマンサの合図だ。

 サクラーノの肩を叩く。


 そしてその時が訪れた。

 互いに支え合っていた二人がついに力尽き、この世に絶望をする。

 この世で結ばれぬのならいっそ来世でと覚悟を決める二人。

 恋する二人が死を覚悟して互いに刃を向け合った瞬間、背景は海を走る船に変わった。

 背景の変わる瞬間に合わせてタマンサは次の節を歌い上げる。

 宿泊客から一斉に拍手が上がった。


(Copyright2023-© 入沙界南兎(いさかなんと))

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ