6話「お妃様の陰謀 100」
次はタマンサの番だ。
ここからが本番。
その為にキティーの回復魔法を使ってまでもチャトーラ達を回復したのだ。
ドタバタと皆、所定の位置へと走る。
「サクラーノ、こっちへ来て」
モモエルがサクラーノを呼ぶ。
「は~い」
サクラーノが満面の笑顔で走ってきた。
これから自分の出番なので嬉しくて仕方ないのだ。
「それじゃあ、結ぶわよ」
サクラーノの腰にモモエルはロープを結びつけた。
ステージの反対側の袖の奥ではチャトーラ達が厚手のマットレスを立てて後ろからしっかり押さえている。
「走っていいだよね、本気で走っていいんだよね?」
ワクワクが止まらないという顔でサクラーノはモモエルに確かめる。
「はい、今日は本気で走っていいんですよ。思いっきりあのマットレスに向かって突っ込みましょう」
「うっし」
気合いを入れてマットレスを睨むサクラーノ。
前は何も気にする事なく走り回っていたサクラーノだったが、自分が本気で走って人に当たるといけないというのが判ってきたのだ。
なので、人通りの多い街の通りなどでは少し気をつけるようになっていた。
今日はそんな気を遣わなくてもいいのだ、思う存分走っていいのだ。
それが嬉しくて仕方なく、気分は爆上げだった。
ステージではタマンサが、
「次はわたしが歌を歌いますね」
と宿泊客に手を大きく広げた。
それが合図だった。
「行って」
サクラーノの肩を叩く。
「うん」
返事と同時にサクラーノが全速力で走った。
サクラーノの繫いだロープは背景の描かれた幕に繋がっており、それをサクラーノが引っ張るのだ。
ステージの端から端までなんて、サクラーノが本気で走れば瞬き程の時間しか掛からない。 全力でサクラーノは走った。
「うぉぉ、背景の景色が一瞬で変わったぞ」
「なんかちっこいのが走って行ったのが見えた気もする」
「違うだろ、何かまた魔法を使ったんだろ」
大騒ぎだった。
サクラーノはチャトーラ達の抑えていたマットレスに全力で突っ込み、衝撃で吹き飛びそうになるのをなんとか堪える。
「くぅぅぅ、これは強烈だな。走りは俺も自信あるけどよサクラーノの本気の走りってものすげえな」
マットレス越しにサクラーノの強烈な一撃を食らい、目を丸くして驚くチャトーラ。
「モモエルの作った特性マットレスじゃなきゃ、吹き飛ばされていたぜ」
チャトーラ達が構えて待っていたのはワゴンのクッションからヒントを得て、モモエルが作った対サクラーノ用のマットレスなのだった。
どういう仕組みは判らないが、サクラーノ自身は本気で走ってぶつかっても怪我はしないのだ。
それは先日の冷蔵庫の一件で判っている。
サクラーノはケガをしなくても、受け止める方はそうはいかない。
まとものサクラーノの体当たりを食らえば確実に吹き飛ばされてしまうのだ。
それに、並のマットレスでは当たった瞬間、大きな音がするのも問題だった。
ステージでそんな音は邪魔でしかない。
タマンサからなんとかしてと泣き付かれ、それを短時間でやり遂げてしまうのはモモエルだから。
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