6話「お妃様の陰謀 97」
歌姫の発動条件は他にも幾つかあるが、一番効果が強いのは歌姫の名が示すように歌う事だ。
それも歌が上手にであればある程、効果が強くなる。
昔、タマンサが伝説の歌姫と呼ばれていたのも歌姫の能力だけではなく、その能力を最大限に発揮出来るだけの歌唱力を持っていたからなのだ。
後ろの幕から合図があった。
「皆さん、お待たせしました。次の出し物が始まりま~~す」
タマンサの声と共に幕が上げられる。
ステージには大きな木が植えられた鉢が置かれていた。
その木から多くの枝が分かれ、枝には紙風船が幾つも付けられている。
「さあ、次に演じますは白妙嬢。盛大に拍手をお願いしいます」
白妙が舞台の袖から手を振りながら現れる。
笑顔が少しぎごちなくも見えたが、これも任務と割り切って笑顔をふりまく。
事前に、タマンサから、
「白妙は美人なんだから、できる限り愛想を振りまいてね」
と言う指示を受けていたからだ。
タマンサの目論み通り、観客のウケも良かった。
宿泊客の反応に頷きつつ、タマンサは、
「さあ皆様、これからこの白妙嬢が離れた所から次々とこの紙風船を割っていきます。その妙技をよ~~~く見ていて下さいね」
自分が宿泊客の目にどう映っているか知った上で、タマンサは砕けた口調で場を盛り上げる。
タマンサの説明にノリで湧く宿泊客。
「では白妙嬢、どうぞ」
タマンサが合図を出す。
白妙の手には既に三本ずつ針が握られていた。
目にもとまらぬ速さで両手を振るうと、たちまち紙風船が六個爆ぜて白い煙が立ち上る。
投げる動作からそのまま腕にしているリストバンドから針を抜いて補充する。
あまりにも速すぎて、酒の入り鈍くなっている宿泊客達の目では追う事が出来ない。
一瞬にして木の枝に付けられた紙風船は無くり、後にはもうもうとした煙が立ち上るだけに見えた。
一人を除いては。
「小さかった白妙が、ずいぶん腕を上げたわね」
忍が嬉しそうに笑いながら、手にした杯の中身をちびちびと飲む。
「うぉぉぉぉ、すげえ」
「一瞬で全部の紙風船が吹き飛んだ」
「どんな魔法を使ったんだ、全然見えなかったぞ」
宿泊客達はあまりの早業に驚くと共に、白妙に惜しみない喝采を送るのだった。
ステージで白妙が喝采を浴びる少し前からステージの脇でチャトーラとトランスロットが必死に自転車を漕ぎ、立ち上った煙がお客の方に行かないように吸い出していた。
「頑張れよトランスロット、ここが踏ん張りどころだぞ」
「う、うん」
二人は汗だくになりながらひたすら自転車を漕ぎ続けた。
体力限界で頭はふらふらだが、宿泊客の喝采しっかりと聞こえている。
「お客さん達は喜んでくれているんだ」
そう思うと、トランスロットは漕いでいる足に力が入った。
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