6話「お妃様の陰謀 96」
彼女はチラチラステージを見ながら美味しそうに食事を楽しんでいた。
「わたしの歌姫に魅了されないとは、流石草の子ね」
草とは忍びの里の潜入工作員の事を言う。
客席で食事を楽しんでいる彼女は名を忍と言い、ウードワスに潜入している工作員なのだ。
目の前の宿泊客達がこの宿に泊まるように工作したのは間違いなく彼女だろう。
「まったく、草まで使ってこの旅行を設定するとか、お妃様は一体何を考えてるのよ」
と最初、草の存在に気がついて頭が痛くなった。
十歳の頃からお妃様に連れられてあちこちを旅をし、現地の草にも何度も世話になったお陰か、草を見分けられるようになったのだ。
「そっちがその気なら、とことんやってやるわよ」
と闘志を燃やすタマンサだった。
「えっと・・・」
近くの三十の大台に手が届きそうな男が何か聞きたそうに手を上げた。
「あっ、わたしタマンサって言います。宜しくお願いしますね」
明るくハキハキした声で自分の名前を教える。
「タマンサ・・・ちゃんでいいかな?」
「はい」
タマンサはニコッと笑う。
再び歌姫の能力が発動して目の前の男のハートを射貫く。
「あ、あの・・・タマンサちゃんはウードワスへ来た事有るのかな?」
男はまるで推しのアイドルを目の前にした少年のようにもじもじと尋ねる。
「何度か行った事有るよ、十歳の時から歌を歌ってあちこち回っていたから」
「そうなんだ、また来て下さい、必ず見に行きますから」
話の終わった後、男は憧れのアイドルと話が出来たような幸せそうな顔で笑う。
「タマンサ・・・う~~ん、どっかで聞いたような?」
男の横にいた恰幅のいい男がしきりに頭を振るが、
「ダメだ、思い出せん」
と諦めた。
タマンサが結婚して歌を辞めてから二十年近くが過ぎている、旅をしていた頃はそれなりに人気もあり、あちこちで歓迎もされたが、今ではタマンサが歌を歌っていたなんて事を覚えているのはごく近しい人くらいだ。
「まっ、人気なんてそんなモノよね」
人の心は移ろいやすい、昔の栄光にいつまでもすがる気などタマンサは欠片も思っていない。
「それに歌姫の能力はまだまだ使えるし」
歌姫の能力の発動条件は幾つかある。
一つはステージで観客にウィンクする事。
もう一つは特定の観客に微笑みかける事。
この二つの効果が有効なのは今確かめた。
ただ、この二つは効果が直ぐに出るが威力が弱い。
ちょっとした事で覚めてしまうのだ。
だがタマンサにとって、それで充分だった。
初めての場所でのステージは何より最初の掴みが大事、たとえ威力が弱くとも最初に観客の心を掴んでしまえば後々やり易くなる。
ウィンクを見た時点で宿泊客達は既に、タマンサの術中に落ちていたのだった。
「これからずーとわたしのターンだから」
ほくそ笑むタマンサ。
なぜナニ後書き 始まるよー
タマンサ無双始まりましたね。
ただの駄目お母さんじゃないですから。
やるときはやる駄目お母さんですW
来週もずーとタマンサのターンですから、宜しく
ではまた来週(^_^)/~
(Copyright2023-© 入沙界南兎)