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転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その1

「姫さん、来たぞぉ」

「来たじゃん」

「四露死苦」

 今日も今日とて小妖精達は我が物顔でミケラの部屋に遊びに来た。

「げっ、またか」

 小妖精達がミケラの部屋に入ると、本を読んでいるミケラの前で幸せそうな顔なタマーリンが倒れていた。

「こら起きろ」

「起きるじゃん」

「四露死苦」

 小妖精達がタマーリンの顔を何度も殴ってやっと目を開ける。

「お前、いい加減にしないと本当にあっちに魂持ってかれるぞ」

 タマーリンがミケラの前で倒れていたのはこれが初めてでは無かった。

「だってほら、ミケラ様にご本を読んで差し上げるとミケラ様の瞳がキラキラと輝いてとても美しくて。その美しい瞳を見つめながら逝けるなら本望ですわ」

 ミケラに読んであげていた本を抱きしめながら、タマーリンは身体をくねくねとさせ身悶える。

「ダメだこりゃ」

 小妖精達はタマーリンを見つめながらお手上げという感じで肩を竦める。


 その時より二日前の事。



「ほらほら、大丈夫だよ。こっちにおいで」

 山田博史 36歳、彼女いない歴=年齢。

 彼は今、木の上に上って降りられなくなり、助けを求めて鳴いていた子猫を助けようとした。

 運動は子供の頃から苦手だ、腹の周りには年齢以上の脂肪がついている。

 そんな彼が子猫を助けようと木に登ったのは、必死に助けを求める子猫の声にいたたまれなくなったからだ。

 周りにも人がいなかったのも彼を突き動かした力となった。

 馴れぬ木登りに四苦八苦しながらようやく子猫のいる枝まで登り着く。

「ほら捕まえた」

 博史の姿を見て、子猫は怯え固まってしまったので簡単に捕まえる事が出来た。

「後は降りるだけ・・・」

 ホッとした瞬間、足が滑った。

 唐突の浮遊感、頭の上にアスファルトの地面が見える。

 一瞬にして事態を把握する。

「せめてこの子だけでも」

 咄嗟に子猫を自分の身体で庇った。



 落ちながら色々なことが目まぐるしく流れていった、小学校の入学式、中学の時の初めての失恋、高校の友達とバカやって怒られたこと、大学で頑張って表彰されたこと、社会へ出てからの何度もの失恋、失恋の痛みから逃げる為に頑張った仕事、それと猫神様・・・

「猫神様?」

 猫神様の口が動いた。

 子猫は助かる、ありがとうと。

「ああ良かった」

 それが最後だった。




「眩しい」

 眩しくて目を覚ます。

「あれここは?」

 身体を起こすと見知らぬ草原の真ん中にいた。

「何故、俺はこんな所で寝ていたんだ?」

 そう考えた瞬間、一気に色々な事が頭の中になだれ込んで来る。

 自分は山田博史だったこと、そして、子猫を助けようとして木の上から落ちたこと。

 そして、自分が死んだこと。

「でも俺はこうして生きている・・・もしかして、あれか?異世界転生とか言う奴?」

 今年入った新人にやたら異世界転生モノを推す奴が一人いて、かなり閉口したモノだったが、その知識がこんな所で役に立つとは思わなかった。

「人生、死ぬまで勉強というのは本当なんだな。もっとも、俺はもう死んだけど」

 乾いた笑いが自分の口から出て、少し虚しくなった。


(Copyright2022-© 入沙界 南兎)

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