6話「お妃様の陰謀 89」
「そうっす、魔道研が作ったのデカぶつっすよ」
宿の裏庭にはまだ三目ちゃんが着陸したままだった。
移動工房を持って帰る役目があるので、それまでここで待機なのだ。
三目ちゃんには国宝級の素材が幾つも使われている、それを守る為の警戒がいつも以上に厳しく敷かれているのは当然だろう。
「しかしな、なんでお前達の存在をモモエルに知られちゃいけねんだ?」
「さあ、よくしらねえっすが。平民のモモエルが調子に乗るとか騒いだ貴族がいるらしいっす、噂で聞いただけっすが」
その話を聞いてクッロウエルは顔をしかめた。
「バカかそいつは、モモエルの才能はタマーリン以上の国の宝だぞ。その宝をわざわざ危険に晒そうってのが信じられねえ」
モモエルの物体鑑定は超精密測定が出来る、その技術をケットシー王国が手に入れられるのは百年先、二百年先になるだろう。
それをモモエルはなんの装置も使わずに出来てしまう。
どこの国だろうと技術者なら喉から手が出る程欲しい貴重な能力なのだ。
そこでクッロウエルは溜め息をついた。
「あそこで俺がもっと踏ん張っていれば」
所長の職を辞すること決めたクッロウエルは、モモエルのことを含めて三バカトリオに相談に行ったのだ。
そして返ってきた返事が、
「俺、そんな面倒なことはやらん」
「俺も研究が忙しい」
「いっその事、モモエルを所長にしてしまえばいいんじゃね?そうすれば貴族のぼんくらも手出しできんしよ」
「そうだ、そうだ」
「そうしよう」
と決まってしまったのだ。
魔法道具研究所は影で王国を支える存在であり、そこの所長ともなれば貴族といえども迂闊には手を出せない。
しかも、王の直属機関なので所長の任命は王が行う、貴族は口出し出来ないのだ。
そのうえ現所長が指名した者が次の所長になる習わしになっていたので、クッロウエルが次期所長にモモエルを指名すれば決まってしまう話だった。
その時はクッロウエルもそれが最善策と思ったのだが、現実は思ったようになっていないのを見てしまうと後悔の念しか浮かばない。
「今更、後悔しても仕方ないか」
クッロウエルは溜め息をひとつ付いてから作業に戻った。
「それじゃ、あっしも仕事に戻るっす」
大河も闇の中に姿を消した。
大河が姿を消した後、
「ジョニス・・・間違いの連鎖って怖いな」
小さく呟く。
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