2話「城下の黒い影 その13」
「パララズ」
バインドの拘束から抜け出した虎次郎にすかさずパラライズが飛び、虎次郎は殺虫剤をかけられたGの様にひっくり返って手足をヒクヒクさせた。
「こんな危ない方を野放しにしておいたらミケラ様の教育に良くないですわ」
手足をヒクヒクさせて倒れている虎次郎を見てタマーリンは満足そうに笑みを浮かべる。
「虎次郎をイジメちゃダメ」
ミケラが虎次郎の前で手を広げてタマーリンを見上げた。
「イジメてなどいませんわ、その方があまりにも危ないので少し動けなくなって頂いているだけですわ」
タマーリンの言葉にチャトーラもチャトーミも同意するように頷いた。
「虎次郎は危なくないもん、私の言うことちゃんと聞くもん」
ミケラが涙目で訴える。
「あうぅぅ」
ミケラが泣きそうになり、タマーリンは戸惑いチャトーラの方を見る。
「え~っ、俺?」
戸惑ったチャトーラだったが、
「旦那が変になるのは姫様絡みだからな、それにタマーリンも色々とちょっかいかけただろ。あれは良くないと思うぜ」
虎次郎に色々ちょっかいを掛けていた事をチャトーラに指摘され、タマーリンは涙目のミケラの顔をじっと見ると、
「申し訳ありませんミケラ様、わたくしが悪かったみたいですわ」
素直にミケラに頭を下げた。
「もう虎次郎をイジメない?」
「はい」
タマーリンはこれ以上無い最高の笑顔で返事をした。
「虎次郎、イジメる人もういないよ」
「姫様、感謝致します」
虎次郎が瞬歩でミケラの横に現れと同時にミケラに傅き、黒づくめの男も、
「僕もイジメないでくれると嬉しいです」
とむっくり起き上がる。
「ちゃっとなんなのよ、あなた達はぁぁぁぁぁぁ~!」
裏路地にタマーリンの絶叫が響いた。
「で、ドラゴンと言うとこないだの湖のドラゴンか、あんた?」
「はい、そうです」
タマーリンが落ち着くのを待ってから皆で黒づくめの男を囲んだ。
「でもよ、何でドラゴンが人間の姿してるんだ?」
もっともな質問だ。
「人の街に入るのに、人の姿を取るのは当然でしょう?それにドラゴンの大きさはその力に比例しますからね。私くらいになると本当の大きさはこの街くらいありますから、街の方達をびっくりさせてしまいます・・・」
黒づくめの男はちょっと自慢げに語る。
「今、なんて言った」
ミミがいきなり黒づくめの男の頭を殴る。
「あたたた」
殴られたところを手で押さえ、殴った相手を見る。
「あっ、よ、妖精さ・・・ん・・・・・・」
殴ったのがミミだと判った途端に目が泳ぎ始める。
「今言ったことをも一度言って見ろ」
「と言うと、街の方達をびっくりさせて・・・」
「違う、その前だよ」
ミミが拳を振り上げると、黒づくめの男はびびりまくる。
「えっと、その、その前とおっしゃると・・・」
目を白黒させ、しどろもどろに答えていると、
「自分の本当の大きさについて言っただろ、もう一度殴られたいのか!」
とミミに怒鳴られ、
「はい、直ぐに・・・びっくりさせるの前ですね・・・・・・そうそう、本当の姿はこの街と同じくらいの大きさ・・・で宜しいでしょうか・・・」
ビクビクしながらミミを見上げる。
「それだ!」
「ひぃぃぃぃ」
ミミが大きい声を上げ、黒づくめの男はびびってチャトーラの足にしがみつく。
「なにが「それだ!」じゃん?」
シルゥが聞くと、
「ほらあれだよ、手下が夜中に大きな影を見たって言っただろ」
「ああ、あれかじゃん」
シルゥがぽんと手を打った。
「て言うことは・・・」
妖精達が黒づくめの男を取り囲み睨み付ける。
「こないだの夜中に空飛んでこの街に来ただろ?」
「え?は、はい、お姫様に会えると思ったら嬉しくて、うかれて元の大きさで来てしまいました、私。夜中だからいいかなとも思いまして」
いきなりミミが男の頭を張り倒す。
「ふざけたこと言ってると張り倒すよ」
「殴ってから・・・言わないで欲しい・・・で・・・」
ミミに睨まれて口を塞ぐ。
「お前の所為で街中大騒ぎになったじゃん」
大騒ぎになったのはロレッタがこの話をあちこちにして回ったのが原因であり、話の出所はミミ達だったのだが。
「四露死苦、四露死苦」
黒づくめの男を妖精達は取り囲み、ガァガァピーピーと責め立てる。
「勘弁して下さい、勘弁して下さい」
男は半べそかきながら土下座を何度もして謝る。
「ドラゴンさんをイジメちゃダメ」
ミケラが庇う。
「ちっ、姫さんに言われちゃ仕方ないか」
「姫さんの頼みじゃん、仕方ないじゃん」
「四露死苦」
妖精達は素直に引き下がって屋根の上に飛び去っていった。
「お、お、お姫様・・・ま、また助けて頂いたのですね・・・」
黒づくめの男は感極まり、震える手でミケラの手を握ると、
「ぼ、ぼ、ぼ、僕とけっ」
言い切らないうちにチャトーラとチャトーミに口を塞がれ、
「おめぇえバカか、また騒ぎになるだろ」
「これ以上旦那を刺激するのはやめてぇぇぇ」
二人は黒づくめの男の耳元で悲痛の叫び声を上げる。
その時、虎次郎は殺気全開で刀の柄に手を掛け、タマーリンはどす黒い笑みを浮かべながら指先をくるくる回し始めていた。
騒ぎを余所に妖精達は屋根の上で、
「面白いおもちゃが来たよな、絶対あいつも姫さんの散歩仲間になるぞ」
「おもちゃにし甲斐があるじゃん」
「四露死苦」
と楽しそうに新しく加わったドラゴンを、どうおもちゃにするか相談するのであった。
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2023/09/30 一部修正
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