6話「お妃様の陰謀 76」
タマンサは昼間はミケラ達の服を作りながらステージ準備の監督をし、朝と夜の空いた時間に歌の練習をするという生活に入った。
みんなもタマンサのいる間はステージの飾り付けを手伝い、タマンサのいない間は自分たちの出し物の練習をしたり、ミケラ達の遊び相手になったりと各々過ごす。
「よし、出来たぞ」
ワゴンの方も、クッロウエルが車軸に取り付けるベアリングを完成させ、既にワゴンに取り付けられていた。
「クッロウエル様、拝見させて頂いて宜しいでしょうか?」
「おお、構わんぞ」
「ありがとうございます」
モモエルはクッロウエルの一礼すると、手をベアリングにかざして物体鑑定をする。
ワゴンに使われているベアリングは棒ベアリングと言って、金属の円筒を並べたベアリングだ。
棒ベアリングは荷重のかかる部分に使われるベアリングで、軽いモノにはボールベアリングが使われる。
まだ、ボールベアリングを作る為の技術の入り口に立ったばかりで、この世界では完成させるのにはまだ時間が必要だった。
物体鑑定で全てのベアリングを鑑定し終えたモモエルは、うっとりとした目でクッロウエルを見た。
その目はまるで恋する乙女のような・・・もっとも、物作りバカのモモエルにはそんな感情は無い、モモエルの恋する感情はモノ造りとミケラに捧げられているのだが。
真面目な話、クッロウエルの作ったベアリングの出来があまりにも素晴らしかったので、その洗練さにうっとりしただけだった。
「凄いですクッロウエル様、全てのベアリングが高精度で作られています。流石クッロウエル様です」
物体鑑定した結果、使われている棒ベアリングのトータルの誤差が0.1ミリ以下だった。
魔法道具研究所にも職人は何人もいるが、これだけの技術を持つ職人は数える程しかいない。
その中でもクッロウエルは間違いなくトップだろう。
職人芸を極めた男の仕事にモモエルはついうっとりしてしまったのだ。
「ふっ、これくらいはドワーフの職人なら出来て当たり前だわな。いちいち誉められるほどのことじゃねえぜ」
モモエルに女の色気など一ミリたりとも感じていないので、うっとりした目で見られても微塵も動ぜず、出来て当たり前と言い切るクッロウエルにますます心酔するモモエルであった。
「それじゃよ、組み付けるか。モモエルの作った仕掛けの具合も見ないとならんからな」
「はい」
ワゴンは車輪の付いた台車と、料理を乗せる為のラック部分に分けられていた。
台車側のラックを乗せる部分には皮で包まれたモノが置かれている。
これはモモエルが布を何度も折り重ね、その上下から膠でなめし皮を張り付けた簡易クッションだった。
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