6話「お妃様の陰謀 68」
「失礼ですわ、お城ではとても役に立っているんですよ」
自分の造ったモノをうさんくさい物を見るような目で見られて怒るモモエル。
「お城と一緒にしちゃ困るぜ、立派なお貴族様がお食事なさるお城と、一般庶民の泊まる宿とじゃ、作法や作りがまるで違うってもんでさ」
やれやれとばかりに手を広げる板長。
「そこまでにしておき、長さん」
黙って見ていた女将が流石に堪えきれなくなって口を挟む。
「でもよ女将さん」
「でもも杓子も無いよ、さっき協力するって言ったよね。あれはでまかせかい」
女将さんに詰め寄られてタジタジになる板長。
「で、でまかせじゃねえよ」
「じゃ、協力するんだね」
念を押す女将。
「するよ、するって言ったろ」
「男に二言は無いね」
「ねえよ」
板長はぶっきらぼうに答えた。
「力貸してくれるんならそれでいいやな。おいモモエル、そいつをこっちに持ってきな」
「はい」
モモエルはワゴンを押してクッロウエルの横に来る。
「まっ、しばらくは実際に料理を乗せようって訳じゃ無いからな安心してくれ。入れ物だけ貸してくれればいい」
「入れ物だけ?」
板長は怪訝な顔をした。
「しばらくは水や重り入れてどう動くか確かめる、ある程度出来上がったら仕上げに料理を実際に運んで確かめないとならんが」
クッロウエルの言葉に板長はしばらく考え込み、
「仕上げだけでいいなら協力するぜ。試しの間の重さも板場で面倒は見る、それでいいか?」
「充分だ」
板長との話はこれで決着が付いた。
早速、ワゴンに水の入った鍋や重りの入った皿などを乗せて、板場から広間までワゴンを押してみる。
「大きい物、背が低くて安定している物は問題ないですが、お銚子や小さい物は振動がひどくて倒れてしまいそうですね」
廊下に敷いてある絨毯の凹凸を拾ってしまい、ワゴンが細かく揺れるのが原因だ。
ゆっくりと押せば誤魔化せるが、それでは折角ワゴンを作って効率よく運ぼうとする意味がない。
「流石にこの大きさではサスペンションを付けるとか無理ですわね」
「サス・・・なんじゃそりゃあ?」
聞き慣れない言葉にオウム返しするクッロウエル。
「サスペンションです、クッロウエル様。異世界のくる、いえ馬車の衝撃を吸収する仕組みの事ですわ。三目ちゃんの脚の部分に使われているんですよ」
「異世界・・・何でそんな技術が使われているんだ。一体、どこから持ってきたんだ」
驚きを隠せないクッロウエルだった。
この世界のサスペンションと言えば、馬車の乗り心地をよくする為の板バネが主流だったのだ。
三目ちゃんが着陸する所はクッロウエルも見ていたが、脚の部分に板バネが使われていないのは確認している。
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