6話「お妃様の陰謀 67」
「わたしが呼んできます」
モモエルが立ち上がると、移動工房へと向かう。
「では、失礼します」
丁度、移動工房から誰か出て来るのとかち合う。
出てきたのは忍びの里の者の衣装に身を包んだ男だった。
「失礼します」
男はモモエルに軽く会釈すると裏庭の木の下へと向かった。
「クッロウエル様、今出て行った方は・・・」
「ああ、あれか。あれは、お前と一緒に来た白妙とか言ったか、あれの父親だ」
「まあ、白妙のお父さんでしたか。わたしったらろくな挨拶もしないで」
挨拶し直そうと出て行こうとするモモエルを、
「いかんでいい、そんな事を気にする男では無いからな」
クッロウエルが止めた。
「そ、そうなんですか・・・クッロウエル様はあの方をよくご存じなんですね」
「あいつが駆け出しの小僧っこの頃からの付き合いだからな、色々と仕事をして貰ったわい」
忍びの里は町や街道の警備、要人の警護の他にも魔法具研究所が必要とする素材の探索や、未踏の地を調べに行く研究者のガードと幅広く引き受けていた。
この世界での冒険者ギルドに近い存在なのだ。
それに魔道具研究所の仕事を手伝えば、忍びの里で使える魔道具の開発もして貰えるというメリットもあったので、忍びの里の方も積極的に魔道具研究所の仕事は引き受けていた。
「そうなんですか」
忍びの里と魔道具研究所との付き合いは知っているので、モモエルは「そんな事もあるのね」程度に聞き流す。
「それより、俺に何か用事があったから来たんだろ?」
「そうでした、宿の女将さんが呼んでます。多分、ワゴンの話だと思います」
「今頃か!まっ、板長は俺以上の頑固者だからな、説得に時間が掛かったんだろ」
クッロウエルは作業の手を止めて立ち上がった。
「女将、来たぞ」
モモエルを伴ってクッロウエルが広間に戻る。
「クッロウエル様、お待ちしていましたよ」
女将はクッロウエルの顔を見てほっとする。
「例の件だろ」
「はい、やっと板長が折れてくれました」
女将の表情に悪戦苦闘の後がにじむ。
「世話をかけたな」
「いえいえ、これもこの宿の為ですから」
「そうか、そう言ってもらえると助かる」
それから女将と共にクッロウエル達は板場に向かう。
「ちょっくら世話になるぜ」
クッロウエルは板場ののれんを潜って中に入っていく。
「クッロウエル様、女将が話していた奴はそれですかい?」
板長がモモエルの押しているワゴンを指す。
「ああそうだ、急作りだからなここで何度か試さないと本番で使えやしない」
「こんなもんがねぇ」
板長はうさんくさい物を見るような目でワゴンを見る。
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