6話「お妃様の陰謀 58」
「戻りました」
製図用の大きな紙の束を持ってモモエルが戻ってきた。
「これを作ってきたので、色を塗ってみましょう」
出来たてほやほやのクレヨンをお膳の上に並べる。
全部で12本有るので、一人一本は確実に使える数は有る。
色も赤、青、黄色、緑に何故か白が混じっていた。
「クレヨン、懐かしい。子供の頃、これで家中に落書きして母さんに怒られたっけ」
ロレッタが懐かしそうにクレヨンを手に取って眺める。
「クレヨン?なぁに?」
ミケラとサクラーノが不思議そうに見ていた。
「あっそうか、使ったことないもんね」
クレヨンは岩、金属、木材と素材を選ばないので、技術者が現場で印を付ける為に使われることの方が一般的で、まだ画材としての認識はなかった。
商店で扱っている所も少なく、一般人が手に入れるのもそれなりの伝手がないと難しいのものだったのだ。
ロレッタが子供の頃使ったことが有るのは、父親が腕の良い技術者だったから子供の為に手に入れることが出来たからにすぎない。
ただ、ロレッタが家中にクレヨンで落書きをしたことに懲りて、二度と家にクレヨンを持って帰ることは無かった。
夫婦喧嘩でも怒鳴ることがなかったタマンサが、クレヨンの落書きを目の前にして金切り声を上げて怒ったのが利いたのだろう。
ミケラやサクラーノが知らないのも当然なのだ。
「ちょっと待って、クレヨン使うなら準備しないと。モモエル様、はさみは持ってます?」
聞かれて、
「有るわよ、外で工作をするのにはさみは必須ですもの」
当たり前のように鞄の中からはさみを取り出す。
「お借りします」
ロレッタははさみを借りると、布の入った箱から適当に布を選んで風呂敷程度の大きさのモノと別の色の布を細く切ったモノを各々二つ作る。
「ミケラ、サクラーノじっとしていてね」
ロレッタはミケラとサクラーノそれぞれに首に布を結びつけ、腰を細い紐で縛る。
「さっ、出来た」
ロレッタの作ったのは簡易エプロンだった。
エプロンでクレヨンの汚れから服を守ろうというのだろう。
「ミケラ様もサクラーノも可愛いです」
モモエルが目をハート型にして誉める。
「お姉ちゃん、わたし可愛い?」
「わたしも可愛い?」
「二人とも可愛いわよ、流石わたしの妹」
ロレッタは二人を抱きしめて頭を撫でる。
「きゃはははは」
喜ぶ二人。
「さてと、もう一つ準備しないと・・・チャトーラ、チャミ手伝って」
「なんだよ」
「なになに?」
ロレッタは二人に、モモエルが持ってきた製図用の大きな紙を持たせて、
(Copyright2023-© 入沙界南兎)