2話「城下の黒い影 その10」
「ちょっと待った」
チャトーラが皆を呼び止める。
「何ですのチャトーラ?つまらない話でしたら許しませんわよ」
タマーリンがミケラの手を引いて戻ってくると、それに合わせて皆がチャトーラの周りに集まる。
「俺たちはこの街の道には詳しいんだよ、なっチャトーミ」
「うん、荷物や手紙を届けているから、道には詳しいよ」
チャトーラ達は現代で言う、宅配便のような仕事をしているのだ。
「でだ、奴に走って行った先はこうなっているんだよ」
チャトーラが足で地面にTの字を書く。
「俺とチャトーミがひとっ走りしてこの両側の道を塞ぐ」
「兄ちゃん任せてよ」
チャトーミがブンブン腕を振り回す。
「そうすると奴は驚いて、来た道を戻ってそこの角に出て来る」
チャトーラが黒づくめの男が走り去った角を指差す。
「でここから肝心、また姫様に頑張ってもらう事になるけどいいかな姫様」
「わーい、わたし頑張る」
ミケラがぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
「そして旦那も頼む」
「切るか?」
「切らない!」
全員に怒られて凹む虎次郎。
「この前のドラゴンの時と同じように姫様に送って貰って、旦那に捕まえて貰う。旦那の足は近距離なら俺やチャトーミより速いですからね」
虎次郎の瞬歩は短距離なら走のタレントを持つチャトーラより速い。
「判りましたわ、ミケラ様が虎次郎と影移動して、あの男の近くに出て虎次郎に捕まえさせようという事ですのね」
タマーリンがチャトーラの作戦を理解して皆に説明した。
「そう言う事」
チャトーラは妖精達の方を向くと、
「姫様が旦那と一緒に移動するのに少し時間がかかるから、お前達はあの角のどこかに隠れていて奴が来たら姫様に合図してくれや」
ミケラが他人と一緒に影移動するには少し気合いを溜める必要があるのだ。
「あいよ」
「任せるじゃん」
「四露死苦」
妖精達は素直に引き受けると、出てくると言う角の方に向かって飛んで行った。
飛んでいく途中でミミが振り返り、
「三人で行っても芸がなくないか?」
「そうじゃん、それにあたい達は小さいから合図が見えないかもじゃん」
「よ、四露死苦?」
三人は飛びながら考える。
「あたい一人で行くからさ、シルゥとリーはここいら辺にいてあたいからの合図を姫さんに送るってのはどうよ?」
「いいじゃん、流石ミミじゃん」
「四露死苦^^」
シルゥとリーがミケラ達と飛び出してくる予定の角との間に残り、ミミ一人が角まで行くと見通しの良い屋根の上に陣取る。
「姫様、妖精達から合図があったら旦那を連れてあの樽の横の影に移動して下さいね」
裏通りにはミケラが影移動に使える影は幾らでもあったが、影移動する為にはミケラの目で移動先が見えている必要があった。
「うん、判った」
ミケラは元気よく返事をする。
「それじゃあ、俺とチャトーミは行くからタマーリン、姫様達を頼むぜ」
「任せておきなさい、それよりあなた達の方こそヘマをしないで下さいよ」
「それこそ任せておけってな、行くぞチャトーミ」
「あいよ兄ちゃん」
チャトーラとチャトーミは凄い勢いで走り始め、あっという間に姿が見えなくなる。
「さっミケラ様、合図があるまで少し時間があるでしょうからそれまでゆっくり致しましょう」
脱字を一箇所修正 2022/01/09
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2023/09/30 一部修正
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