6話「お妃様の陰謀 43」
「ねえ、チャトーミのあれは?」
ミケラに聞かれて、
「あれって、なに?」
「ほらあれだよ、あれ。チャトーミが一杯増えるあれ」
草原で武茶士に出会った時に見せた分身の術のことだった。
「あぁあれ・・・でもあれ凄く疲れるからちょっとしか出来ないよ」
「えっ、なになに?」
タマンサが聞きつけて話に割り込んできた。
「チャトーミがね、前草原に行った時に三人になったんだよ」
タマンサにミケラは説明した。
「へぇ~、凄いわね。ねっねっ、チャトーミ。やって見せて」
「見たい見たい、わたしも見たい」
サクラーノが大はしゃぎだ。
「ここで?もっと広い場所がいいかな」
チャトーミは広間を見回した。
「あそこならどう?」
タマンサは広間の奥にあるステージを指す。
温泉旅館にあるステージとしては広いステージで、そこそこの人数の楽団でも入りそうだった。
「うん大丈夫そう、ちょっとやってみるね」
チャトーミはトコトコとステージまで歩いて行く。
「じゃやるよ」
ステージで手を振ると、一瞬姿がぶれ三人に分かれる。
「うぉぉぉぉ」
「うわぁぁぁ」
その場にいた皆が一同に驚く。
「あれ凄いことしているね姉ちゃん」
「うん、とても真似出来ないよ」
動体視力に優れている白妙と黒妙の目には、チャトーミが何をしているか見えていた。
「でも、黒妙なら出来るかも」
黒妙は白妙より小柄で身体能力は白妙より高い。
チャトーミのやっていることは、高速で走って一瞬止まり、再び高速で走るの繰り返しなのだ。
しかしだ、高速で走っていたのを一瞬止まり、再び走り出すの繰り返しは身体にかなり負担が掛かる。
身体が小さく瞬発力が高く、走ることを強化するタレント持ちのチャトーミだからこそ出来る技なのだ。
白妙も運動能力には自信があったが、体格は人並みにあるのでチャトーミと同じ動きは無理だった。
「づ、づがれだぁぁぁぁ」
チャトーミがステージでぺたんと座り込む。
顔中から汗を拭きだしている。
「お疲れさん、チャトーミ」
白妙と黒妙がステージに上がりチャトーミに手を貸してステージから下ろす。
「ありがとう」
「ほらこれを飲んで」
タマンサが冷めたお茶をチャトーミに手渡す。
「うん」
一気に飲み干す。
「ああ、美味しかった。ありがとうタマンサさん」
お茶を飲み干していつものチャトーミに戻った。
「今の凄かった、なんかコツとかあんの?」
「コツ?えっとね、ピューと走ってピッと止まって直ぐにピューと走ればいいんだよ」
チャトーミは真剣な顔をしてそう答えた。
「そっか、ピューと走ってピッと止まって直ぐにピューか、判った」
黒妙もうんと頷く。
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