6話「お妃様の陰謀 40」
閂を元の戻し、冷蔵庫の扉に問題が無いのを確認してから持ってきた工具類を移動工房に戻す。
「お手伝いありがとうございました、本当に助かりました」
モモエルは手伝ってくれた皆に頭を下げるが、
「おうご苦労さん、わし等はこれから工作に掛かるからみんな部屋に戻ってくれ」
クッロウエルはそれだけ言うとさっさと移動工房の中に入ってしまう。
「すみません、すみません」
モモエルはひたすらペコペコと頭を下げまくったが、
「おらぁモモエル、作業始めるぞ。さっさと来い!」
工房の中からクッロウエルに怒鳴られて慌てて移動工房に飛び込んだ。
モモエル達を残して一同は宿の部屋に戻る。
「モモエル達はなんかやることがあるみたいだから、その間にわたし達は出し物を決めてしまいましょう」
既にタマンサが歌を歌うことと黒妙が手裏剣の腕を披露することは決まっていた。
「わたしは裏方でいいかな、人前で何かする程の芸も無いし」
ロレッタは裏方宣言をする。
「ホント、わたしの娘なのに何で地味なのかしら」
タマンサが溜め息をつく。
「父さんに似たのよ、父さんに」
ロレッタ達の父親は腕の良い技師で、実直で真面目を絵に描いたような人柄だった。
その実直さにタマンサが惚れ込み押しかけ女房同然に一緒になったのだ。
それなりに幸せであったが、幸せの日々はいつまでも続かなかった。
ロレッタが11歳の時にタマンサのお腹の中にサクラーノを残して、その父は死んでしまったのだ。
激戦続きで損傷の激しい砦の修理に駆り出されたのだ。
それでも後方任務で安全を約束されたので、タマンサも渋々承諾したのだが、破損箇所の修理中に魔獣の急襲を受けて逃げ遅れたのだ。
聞いた話では、若い部下達を先に逃がし、自分は殿を努めて逃げられなかった言う話だったが。
それ以来、大黒柱を失った家を支えてきたのはロレッタだった。
死んだ父親に対して国から恩賞が出たのでしばらく食べるのには困らなく、やがてミケラも引き取ることになり生活自体は安定した。
だが、タマンサは良い母親ではあったが、良い主婦では無かったのだ。
気さくで優しく人の面倒もよく見る性格だったが、裁縫は天才的才能を持っていた。
今でも、自分の着る服とトランスロット、サクラーノの服はタマンサが作っている。
小さい頃はロレッタもタマンサの作る服を喜んできていたが、大きくなるに従ってタマンサの作る服が自分に似合わないと思い始め、今では裁縫の上手な友達に作って貰っている。
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