6話「お妃様の陰謀 39」
「おっと、その前に閂直しちまおうぜ。やりかけの仕事をほっぽっておくのは俺の性分に合わねえからよ」
「はい」
モモエルは再び人を集めると、移動工房から必要な工具や材料を冷蔵庫のある部屋へと運び込む。
「悪いけどよ、もう一仕事手伝ってくれ。その閂をここまで運んでくれねえか」
クッロウエルは、床に置かれた金属の板を指す。
床に置かれた金属の板は薄く持ち運びやすいが、強化魔法が何重にも施されていてクッロウエルが手にしているごついハンマーで本気で殴っても傷ひとつ付くことは無いのだ。
「よっしゃ、任せとけ」
チャトーラが閂を抱えると腰を落としゆっくりと運ぶ。
「兄ちゃん頑張れ」
「チャトーラ頑張れ」
「チャトーラファイト」
野次馬に来たミケラ達がチャトーラを応援した。
「どっこいせ」
チャトーラは指定された板の上に閂を置く。
「ご苦労さん。じゃ、モモエル一丁頼むぜ」
「はい」
モモエルが手をかざすと閂の折れ曲がった部分がみるみる内の真っ赤になる。
「危ねえから、みんな下がってくれ」
クッロウエルは皆を下がらせ、安全を確認してから手にした鍛冶用のごついハンマーを一気に振り下ろす。
「ふん!ふん!ふん!」
何度か振り下ろした後、火傷しない程度に閂に顔を近づけ、
「こんなもんか」
閂の曲がりが取れているのを確認して、満足そうに頷きハンマーを納めた。
「相変わらず見事な腕ですクッロウエル様」
モモエルはクッロウエルのハンマー捌きをうっとりとする目で見ながら褒め称えた。
「ありがとうよ、でもよ、うまくいったのはおめえがいたからだぜモモエル。おめえの火加減がなかったらこう簡単にはいかなかったからよ」
モモエルの使う魔法は通常の魔法とは異なっていた。
魔法で加熱する場合、魔力を熱に変換してタマーリンのファイヤーボールのように放って外部から加熱するのだ。
しかし、モモエルは魔力を熱に変換もしなければ、冷気にも変換せずに物体を加熱したり冷却したりしているのだ。
物体が熱を持つと分子や原子の運動が活発になる。
ならば直接分子や原子を振動させて加熱してしまえ、という発想で出来たのが電子レンジだ。
マイクロ波を照射することで水の分子を振動させて加熱させているのが電子レンジの原理である。
それと同じ事をモモエルは魔力でやっていた。
神の理を暴く手と言われる程の物体鑑定能力で鑑定して分子や原子の存在はよくは判らないが把握していた、
「何か判らないけどこれを振動させたらモノが熱くなったラッキー」
というノリでやっているのだ。
冷却も同じ理屈。
「動かして熱くなるなら止めれば冷える?あっ、冷えた!ラッキー」
かなり強力な魔法だが、効果の及ぶ範囲はモモエルの手の大きさで半球を描いた範囲なので効果範囲がかなり限られている。
それでもモモエルが必要とする役には立っているので、モモエルは満足していた。
「閂の留め具の溶接をしてしまいますね」
モモエルは銅で出来た細い棒を手にして冷蔵庫の入り口に向かう。
入り口の先ほど仮止めした金具の横に銅の棒を押し当てると、棒の先端に指を付けて魔力を注ぎ込む。
棒の先端が見る見るうちに溶け、金具と壁の隙間を埋めていく。
モモエルの魔法の凄い所は効果範囲内で在れば自由に加熱場所を選ぶことが出来るので、熱ムラが無く外から炎であぶる溶接よりきれいに仕上げることが出来るのだ。
「終わりました」
瞬く間に全ての金具の溶接を終わらせてしまうモモエル。
「溶接やらせたらおめえに敵う奴はいねえな」
クッロウエルも満足そうに笑う。
閂を元の戻し、冷蔵庫の扉に問題が無いのを確認してから持ってきた工具類を移動工房に戻してから部屋に戻る。
「お疲れさん、助かったぜ。女将、みんなに何か出してやってくれよ。俺のおごりだ」
「はいはい、判ってますよ。冷蔵庫を直すのを手伝ってくれたのですから、わたしのおごりでいいですよ」
そう言って女将は席を立つと、仲居を引き連れて戻ってきた。
仲居達は手にしたお盆にそれぞれお菓子や果物が乗せられている。
「さっ、皆さんお召し上がり下さい」
ミケラとサクラーノ、チャトーミの顔が綻ぶ。
後書きです
先週、先々週は私のミスでご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
特に自動運転で落としている人たちには無駄なダウンロードをさせてしまって本当に心苦しいです。
色々とあって疲れていたという言い訳はだめなんですが、疲れているとやっぱ自分でまともなことをやっているつもりでミスのてんこ盛りになりますね。
ここのところ体調もいいので、この体調を崩さないように頑張ります。
ではまた来週(^_^)/~
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