6話「お妃様の陰謀 34」
「おい、そこのくそぼけ爺」
「誰がくそぼけ爺じゃ」
「お前だよお前、このバカッウエル」
「モモエルちゃんに所長を押しつけてとんずらこいたくそ爺」
「モモエルちゃんがどんだけ苦労したと思ってんのよ、この人でなし爺」
「おっ、それいただき」
他の二人がぽんと手を打つと、
「せぇの!ひ・と・で・なし、ひ・と・で・なし、あっそれ、ひ・と・で・なし」
老人三人が司令室ではやし立てながら踊り狂い始め、他の研究員は関わり合わないように目を逸らす。
「誰が人でなしじゃ、誰が!モモエルの件はお前達にも相談したじゃろがぁ!」
クッロウエルが怒鳴り、はやし立てていた三人がギクッとして動きを止める。
「お前らそん時になんて言ったか忘れたなんて言わせねえぞ。モモエルが所長になってくれればわし達は安心して研究に没頭出来るからモモエル所長で決まり。と言ったのはお前らだよな?」
思わぬ暴露に三人は固まったまま動かなくなった。
「やっぱりあの噂は本当だったんだ」
「ひでえよな」
「モモエル所長可愛そう」
事情を知らなかった研究員がひそひそと話す。
動きを止めたまま硬直していた三人だが、おもむろに席に座ると呆けた表情になり、
「今日もいい天気ですねぇ、はいはい、今年で80になります」
「・・・サ、サビエラさんや、わ、わ、わしゃあ朝飯食べたかいのう?」
「はっ、ここはどこじゃ?わしは誰じゃ」
さっきまで元気いっぱい踊っていたのが嘘のようによぼよぼ爺さん化したのだ。
「いきなりモウロク爺化するな!」
怒鳴るクッロウエル。
「ちっ、ここは乗ってくる場面じゃろ?」
「そうじゃそうじゃ、ちっとは空気読めって言うの」
「これだから年寄りはよぉ」
悪びれない老人三人であった。
老人コントを白い目で見ていた白妙は目の端に気配を感じ、その方を向く。
今まで気がつかなかったが、庭の隅の木の陰に忍び装束の男が身を潜めている。
男は白妙に側に来るように合図を送って来た。
白妙は周囲に気取られぬようにその場を離れると、男の潜む木へと急ぐ。
「父さん、どうしてこんな所に?」
男は白妙の父親、白虎だった。
「あれの護衛だ」
白虎は三目ちゃんの方に視線を向ける。
「あれにはなんでも国宝級の素材が使われているから、墜落した場合は警備と回収をするように魔法研から頼まれたのだ。おかげで警備に俺まで借り出された」
白虎は溜め息をついた。
三目ちゃんは空を高速で飛行出来る、それを追い掛け護衛しようというのだから少人数では到底無理な話である。
担当範囲を決め、総勢50人がリレー方式でここまで護衛をしてきたのだ。
三目ちゃんが飛び立つ時に密かに押されたボタンは白虎たち護衛チームに三目ちゃんが飛び立ったことを知らせるボタンだった。
「姉ちゃんなんでこんな・・・あ~~~っ、父ちゃん!」
姉がいないのに気がつき追って来た黒妙も父親の存在に気がつく。
「し~~~っ、父さんはまだ任務中なんだから大きい声出さないの」
白妙に注意されて、
「う、うん、ごめんなさい」
素直に謝る黒妙。
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