6話「お妃様の陰謀 31」
「待って下さいね」
モモエルは下げている鞄の中からトランシーバくらいの大きさの箱を取り出すと、耳に押し当てた。
箱を持つ指でスイッチを何度も押す。
「後30分程で来るようです」
「なんじゃそりゃあ?」
クッロウエルがモモエルが手にした箱に興味を持つ。
「魔法通信機です、流石にこの大きさだと遠くとは会話出来ませんけど、簡単な信号なら送受信可能なのでそれで情報を交換出来るんですよ」
「な、なにぃぃ!」
叫び声を上げるとクッロウエルはモモエルから箱を奪い取る。
「この大きさで魔法通信機とか有り得んじゃろ、分解していいか?なっ、分解してもいいじゃろ?」
「いやぁぁぁ!」
モモエルが速攻でクッロウエルから箱を奪い返すと、しっかりと胸に抱え込む。
「ちょっとだけ、本当にちょっとだけばらばらにするだけだからなっ、なっ」
「いやいや、絶対にいや」
モモエルは箱をしっかり抱え込むと身体で覆い被さって守ろうとする。
「やめてあげなさいよクッロウエル様、その子、そんなに嫌がっているじゃないですか」
見かねて宿の女将が止めに入った。
「しゃあねえな」
クッロウエルは頭を搔きながらモモエルから離れた。
クッロウエルが離れ、モモエルに背中を向けた瞬間、モモエルとは思えぬ速さでモモエルは宿の女将の後ろに回り込んだ。
「ああもう、俺が悪かったよ。もう分解するなんて言わねえから、勘弁してくれよ」
クッロウエルはモモエルに手を合わせて謝った。
「本当に?」
「ああ本当だ」
「約束してくれる?」
「おう、約束するぜ。クッロウエルの名前にかけてもうその箱を分解するなんて言わねぇぞ」
それを聞いて少しだけ警戒を解いたが、それでもモモエルは女将さんの後ろから出てこようとしない。
「クッロウエル様があそこまで言ったなら大丈夫よ、性格に問題はあるけど面子も大事にする方だから」
女将さんに促されてモモエルはやっと女将さんの後ろから出てきた。
「助かったぜ女将」
「クッロウエル様の行いが悪いからでしょ」
女将はコロコロと笑う。
「昔からこいつは自分の造ったモノを分解したり壊されるのを凄く嫌がってたな、忘れてたぜ」
モモエルは自分の造ったモノに異常な愛着心を持っていたのだ。
以前、自爆ドローンの話を武茶士がした時、モモエルが取り乱したのもそれが原因なのであった。
「そのくせ、こいつも他人が造ったモノは直ぐに分解して調べたがるんだぜ」
「そ、それは昔の話です」
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