6話「お妃様の陰謀 30」
モモエルが使える数少ない魔法の内、一つが物体加熱。
大抵の金属はあっという間に液状になるまで加熱することが出来る。
サイズは限定されるが、溶鉱炉いらずのモノ造りにはかなり重宝する魔法だ。
もう一つが物体冷却。
液状にまで加熱した金属を、瞬時に固めることが出来る。
物体鑑定で事前に特性を知っていれば、焼き入れ、焼き鈍し自由自在のこれもモノ造りにはかなり有用な魔法だった。
最後の一つが、シールド。
手限定でしか張れないが、タマーリン曰く、
「モモエルのシールドなら、虎次郎の一撃も防げますわ」
と言わせる程に強固なシールドだった。
物体加熱の熱波や、物体冷却の冷気から手を守る為の魔法だ。
とことん、モノ造りに特化した魔法しか使えないのもモモエルらしい。
「ネジ穴もネジも完全に潰れてるな、これは一から作り直さないとダメか」
クッロウエルが破損状況を細かくチェックして溜め息をつく。
「これ、ネジ穴を作り直すより溶接してしまった方がいいですわね」
潰れたネジ穴を覗き込みながらモモエルが提案する。
「やっぱ、そっちの方が早いか。モモエル、手伝ってくれや」
「いいですけど、今は休暇の予定出来ているので溶接用材を持っていませんわ」
普段から溶接用材を持ち歩いているような口ぶりだ。
「そうか、でもよ仮付けは出来るだろ」
「はい、任せて下さい」
モモエルは吹き飛んだ留め金を壁に押し当て、ネジ穴の位置を合わせると潰れたネジをネジ穴の中になんとか押し込む。
「クッロウエル様、ネジを溶かすのでこれを押さえておいて下さい」
「ちょっと待て、素手だと流石に俺の手が保たねえ。見繕ってくるからよ」
一旦部屋を飛び出すと、布でぐるぐる巻きした手にトングルを持って戻ってくる。
「これでこう押さえて、どうだこれで行けるぜ」
トングルで留め金を挟んで押さえた。
「では行きますよ」
モモエルが指先をネジの頭に押しつけると、ネジは見る見るうちに真っ赤になり、金属の焼ける匂いがあたりに籠もる。
「よしっと」
ネジが溶けて垂れだした瞬間、加熱から冷却に切り替えて固着させた。
同じ作業を全てのネジ穴にして、留め金の仮付け作業は終演となる。
「相変わらず見事な腕だな」
クッロウエルに褒められて少し照れ笑いするモモエル。
「とは言え、本格的に溶接するとなるとそれなりに道具がいるが、研究所から取り寄せるわけにもいかんからな」
クッロウエルは腕組みをして考える。
「大丈夫です、道具は一式もう少しで到着するはずですから」
後書きです
日曜日、予定が入ってしまったので少し早めにアップロードします。
また来週(^_^)/~
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