6話「お妃様の陰謀 29」
「おいおい、体当たりであれをやってのけった言うなら、体当たりした方だってそれなりに怪我するはずだ。あの閂をあんなに曲げるのにどれだけ力がいると思っているんだ?」
言われてみてモモエルはやっと気がついた。
サクラーノがもっと小さい頃は体当たりするとケガをして、その手当てをしたことが何度もあった。
でも、最近は体当たりをしても怪我をするどころか平然としている。
「なんなんでしょうね」
サクラーノもミケラも魔法適性はほぼ0なので魔法の類いではない。
「ミケラ様の力も不思議ですが、サクラーノの力も不思議ですね」
魔法を操ることは苦手でも、魔法の基礎理論に精通していないと魔法具など作れない。
モモエルの頭の中には魔法の体系がしっかりと記憶されている。
自分の知識を総動員しても、ミケラとサクラーノの力は謎だった。
しかし、思わぬ所から思わぬヒントが飛び込んできたのだ。
「なんだモモエル、ミケラ達の力の源が何かしらんのか?」
声の主はマオだった。
「マオ、あなたは知っているの?」
「無論じゃ、何しろ予は魔王じゃからな。わははははは」
無駄に高笑いするマオ。
「あの、サクラーノ寝かしたいんだけどいいかな?」
ミケラを抱えたタマンサが割って入ってきた。
「あっ、すみません。サクラーノを寝かせてあげて下さい。キティーあなたも付いて行ってあげて」
「はい、モモエル様」
「予もサクラーノが心配じゃから行くぞ。モモエル、話は後じゃ」
ほとんどのメンバーがサクラーノについて行き、残ったのはモモエルとクッロウエル、それと宿の関係者だけになった。
「しかし、本当に見事に壊してくれたもんだな」
クッロウエルが扉に近寄り、詳しく状態を確認する。
「クッロウエル様、冷蔵庫は大丈夫でしょうか?」
女将が心配げに聞く。
「ああ、扉自体は問題ないから使えるぞ。壊れて使えなくなったのは閂だけだ」
女将がほっと一安心した。
何しろ団体客用に食材を買い揃えたばかりなので、冷蔵庫が壊れてしまうと中の食材も傷んでしまう。
「良かったですね女将さん」
オタマさんも喜ぶ。
「こうなったのもオタマさんが冷蔵庫を閉める時に中を確かめなかった所為でしょ。いつも言っているでしょ、冷蔵庫を閉める時は必ず中に誰もいないのを確かめて閉めるようにって」
「すみません」
やぶ蛇を突いて怒られるオタマさんであった。
「それで閂の方は直せそうですか?」
「道具が無いから俺じゃ無理だな、モモエル、一丁頼むぜ」
クッロウエルのリクエストに、
「流石にわたしでも道具無しでは、この閂は直せないです」
「お前さんのタレントでも無理か」
モモエルのタレントは器用貧乏。
小さい頃から手先が器用でモノ造りは得意だったで、小さなアクセサリーを友達や近所の人に頼まれては作っていた。
ただ、何故か手先の器用さが増すに従って貧乏くじを引きやすくなっていったのだ。
魔法具研究所に入るなりいきなりミケラの面倒を見るように王様に頼まれたり、クッロウエルに所長の座を強引に渡された時も「またか」と言う諦めもあったのだ。
それでも引き受けたからには全身全霊を持って事に当たるのがモモエルの良い所ではあったし、それで周りからの信頼の勝ち取ってきたのだ。
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