6話「お妃様の陰謀 28」
「何ですか、今の音は?」
モモエルの後から宿の女将さん達もやって来た。
「サクラーノ!」
女将さん達の間を縫うようにしてトランスロットが部屋に飛び込んでくる。
「なんだ、なんだ今の音はよ」
クロのじいさんもやって来たようだ。
「えっ?」
その声を聞いた途端、モモエルが振り向く。
「げっ、モモエル」
モモエルの顔を見た瞬間、クロのじいさんは逃げようとしたが、
「クッロウエル様、待って下さい」
モモエルが素早くクロのじいさんにしがみつく。
「やっと見つけた、やっと見つけた・・・うわぁぁぁぁぁぁん」
クロのじいさんにしがみついたまま、モモエルはわんわん泣き始めた。
「やめろ泣くな、俺がお前に何かしたみたいに思われじゃねぇか」
「したじゃないですか、わたしに所長を押しつけて自分はさっさと逃げたじゃないですか。わたしがどれだけ大変な目に遭ったと思ってるんですかぁぁぁぁ」
モモエルの叫びにクッロウエルはぐうの音も出なかった。
「悪かったよ、俺が悪かったからもう泣くのはやめろよな」
「本当に悪いと思ってます?本当に?」
「本当だ、本当に悪いと思ってるから離してくれ」
それで納得したのか、モモエルはしがみついていたクッロウエルの身体から離れた。
「すみません、つい取り乱してしまって」
モモエルはクッロウエルにしがみついて泣きわめいたことを顔を真っ赤にして謝った。
「いや、俺も確かに悪かったしな・・・」
クッロウエルはふと、タマンサに仲居の一人と一緒にペコペコと頭を下げる女将が目に入った。
「どうしたんだ女将?」
「どうしたもこうしたも、オタマさんが中を確かめないで冷蔵庫の扉を閉めてその子達が閉じ込められたんだよ」
クッロウエルはタマンサに抱かれたミケラと気を失い白妙の腕に抱かれているサクラーノを見た。
「そっちの子は大丈夫なのかい?」
「大丈夫です、体力を使い果たして気絶しただけなのでゆっくりと寝かせてやれば回復します」
キティーが自信を持って答えた。
「お前さんは?」
「うちの・・・魔道具研究所に最近配属された回復術士のキティーですわ。回復魔術の才能はわたしが保証します」
「ありがとうございます、モモエル様」
「ちょっと待てや、怪我も無しか・・・・・・あれで」
クッロウエルは冷蔵庫を睨む。
冷蔵庫の閂がくの字にひしゃげ、閂を止めていた留め金が完全に吹き飛んでいる。
「サクラーノですから、体当たりしてもいつも元気」
その一言で済ましてしまうモモエル。
(Copyright2023-© 入沙界南兎)