6話「お妃様の陰謀 23」
「もう、恥ずかしいな。家で食べさせてないように思われるじゃない」
「でも、ミケラもサクラーノもこれだけたくさん食料があるのを見るのは初めてじゃない?」
買い物は主にロレッタとトランスロットが担当していたので、ミケラもサクラーノも買い物に連れて行ってもらった経験がなかったのだ。
小さい商店は何度もその前を通ったことがあったが、大きめの食料店は倉庫の販売スペースに集まっていて子供だけそのスペースには入り辛かったのだ。
故に二人の目には一杯積まれた食料が、初めて見る宝の山に見えていたのだ。
「これからは買い物に連れて行くか」
ロレッタも少し反省したようだ。
「さむっ」
動きやすさを優先した薄着の白妙と黒妙が、入るなり寒そうに身を寄せ合う。
ケットシーは猫の妖精なので寒さは苦手なので、余計に堪えたのだろう。
「ほんと、ちょっと寒いわね。どうやって冷やしているのモモエル」
聞かれたモモエルは、
「鑑定魔法を使って良いですか?」
女将に許可を取る。
「いいですよ」
女将の承諾を取り付けてモモエルは右手を前に差し出し魔力を集中させた。
「鑑定!」
その言葉と共に右の掌が光る。
モモエルは目を閉じ、しばらくじっとその場に立ち尽くす。
「判りました、構造はほとんど王都にあるモノと同じですね。井戸から水を汲み上げて、その水で冷蔵庫全体を冷やしているんですよ。冷蔵庫の外側は何重にも高機能魔法断熱材が外からの熱を防いでいるので、この中は井戸水とほぼ同じ温度まで冷えています」
鑑定魔法はモモエルが使える数少ない魔法だ。
ただその精度は高く一部では『神の理を暴く手』とまで言われていた。
実際、モモエルにはスペクトル分析や、原子配列、その下の素粒子まで見えていたのだが、この世界にはその学問がなく宝の持ち腐れとなっていたのだ。
「魔法断熱材がふんだんに使われているので、この冷蔵庫かなり高額になりますね」
魔法をかけられた建築材はモノによってはかなり高額になる。
一般家庭に使われている魔力ガラスは、断熱、防音、強度強化の魔法が付与されているが、一般家庭向けなので安価であった。
が高機能魔法断熱材は需要も少ない上に魔力もかなり必要とするので高額材となる。
「・・・如何ほどになりますの?」
女将が興味本位で聞いた。
「これくらいになりますよ」
モモエルが女将の掌に指で金額を書いた。
「えっ、そんなに?何かの間違いじゃなくて」
モモエルが首を横に振る。
「これだけあればこの旅館が後三軒は建てられますわ」
女将は目眩がして頭を押さえた。
「大事に使ってやって下さい」
「はい、この冷蔵庫はこの宿の宝ですわ」
女将の返事を聞いてこの冷蔵庫はこれからもこの旅館で大事にされると、モモエルは安心した。
「もう出ようよ」
「さ、寒いです」
白妙と黒妙が流石に限界のようだ。
「そうですね、皆さんにも冷蔵庫がどんなモノか見てもらえたのでもう出ましょう」
モモエルの言葉に、白妙と黒妙はほっとする。
ミケラの護衛として来ているのでミケラの側から離れない二人なのだった。
「そうそうミケラ様とサクラーノ、いいですか、この中には一人で決して入っては行けませんよ。入るなら誰かと一緒に、これは絶対に守って下さいね」
「は~い」
ミケラとサクラーノは元気に返事をした。
もっとも、冷蔵庫の扉は重くて子供の力では開けるのは不可能なので、周りに居た大人達も二人の返事をニコニコと聞き流しただけだったのだが・・・
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