6話「お妃様の陰謀 13」
鍋の後はパスタだった。
ただ、パスタにしては太く色も白く淡泊な味だ。
その麺を刻んだ野菜と一緒に炒めてショウスで味付けしてから卵を絡めてあった。
タマンサがフォークで絡め取って口に入れる。
ショウスの香ばしい香りとしょっぱさ、それに混ざって卵のクリーミーな味が口の中に広がってなんとも言えぬコントラストを作り出す。
「美味しい」
タマンサは驚きの味につい口を押さえる。
武茶士がいたら「焼きうどんじゃん」と言っていただろうが、初めての味はタマンサ以外も受け入れられたようで、みんな黙々と食べる。
パスタが終わるとデザートが運ばれてきた。
こちらでよく食べられる桃によく似た食べ物で「ピーモ」と言う。
既に皮も剥かれ、食べやすい大きさで皿に並べられていた。
「あらこのピーモ、よく冷えていて美味しいわね」
川や井戸で冷やしておいたようによく冷えていて、口の中に冷えた甘い果汁が広がる。
「果物は冷やした方が美味しいですね」
キティーも美味しそうにピーモを頬張っていた。
「冷えた果物なら王都の倉庫でも売ってますよ、あそこには冷蔵庫や冷凍庫が・・・あ~~~っ」
唐突に奇天烈な声を出すモモエル。
「仲居さん、この宿に冷蔵庫はありますか?」
「冷蔵庫?何のことでしょう?」
仲居は知らないようだった。
「モノを冷やす機械の事です、部屋くらいの大きさの」
この世界の冷蔵技術はまだ未熟なので、冷蔵庫も頑張って小さくしても小さな小屋くらいの大きさになってしまうのだ。
「ああ、モノを冷やすお部屋ならございますよ」
仲居の言葉にモモエルは我が意を得たとばかりに破顔した。
「やはりそうですか、先ほど出てきた魚の切り身が乗っていたお皿も妙に冷えていたのでもしやとは思っていたのですが」
「モモエル様、どういうことですか?」
キティーが不思議そうに聞いてきた。
「キティーも魔法具研究所の一員ですから知っておくといいですね。冷蔵庫というのは我が研究所が昔開発した装置なのです。肉や野菜を生で長期に保存したいという要望の元に、前所長のクッロウエル様が開発したのだそうです。王都でも王宮の厨房と兵舎の厨房、後は倉庫にあるだけのとても貴重なモノなのですよ」
「そんな貴重なモノが、何故この宿に?」
キティーの疑問はもっともだ。
「たぶんクッロウエル様がここに設置したのでしょう」
モモエルは仲居に向き直って、
「その冷蔵庫、見せていただけませんか?」
「女将さんに聞かないと判りませんが、もう厨房は明日の仕込みに入っているので、見せてもらえるとしても明日になりますよ」
仲居の言葉に少しがっかりしたモモエルだが、
「それでは女将さんに聞いて下さいね!わたしが是非見て見たいと言っていたのも付け加えて!」
かなり血走った目で仲居の肩をがっちり掴んで頼み込む。
「お客さん、怖い、怖いですよ」
その後、白妙と黒妙によってモモエルは仲居から引き剥がされる。
タマンサとキティーが仲居に頭を下げ、仲居も恐縮して戻っていった。
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