6話「お妃様の陰謀 12」
言われたトランスロットは黙々と食事を続け、
「可愛げ無くて悪かったわね」
ロレッタはそっぽを向く。
「それにしてもこれ本当に美味しいわ、ちょっと変わった味だけど・・・何使ってるのかしら?」
ロレッタは鍋を食べながら変わった味に興味を持つ。
「これは豆を発酵したモノですね、うちの里も湿度が高いので発酵させた調味料を使ってます」
「へえそうなんだ」
ロレッタは発酵というのが判らなかったが、適当に相づちを打った。
王都の名をギャザンと言う、周りを草原で囲まれ、水源地から地下水路を使って水を引いているギャザンは湿度が低く過ごしやすい街だったのだが、湿度が低く、発酵食品を作るのには向いていない土地柄の為、発酵食品にはあまり縁が無いのだ。
忍びの里やこの温泉のある周辺は水源が近く、森も近いので湿度も高く、自然と発酵食品が発達したのだった。
「こちらではヌカミと言ってますが、売店で売ってますので宜しかったらお土産にお一ついかがですか?」
商売熱心な仲居であった。
「これ、お肉とか漬け込んでおくと美味しいよ」
「うちの里ではミンと言っていますが、お肉を漬けると長持ちするんですよ」
黒妙と白妙のお奨めもあって、ロレッタはワーショウスと共にお土産リストに加える。
「ささっ、鍋はまだありますから、お替わりいかがですか?」
「わたし、貰おうかな」
小食のモモエルには珍しく器を差し出す。
「変わった味だけど、後を引くのよね」
「予も頼む」
マオも器を突き出す。
「はい、どうぞ」
仲居は器を受け取ると一杯にしてから返す。
「あつっ」
少しは冷めているだろうと油断したモモエルがあまり冷まさないで口にして、危なく口の中を火傷しかけた。
「なんで、まだこんなにまだ熱いの?」
渡された鍋の中身は先ほどまで火で暖めていたかのように熱かったのだ。
鍋を温めているなら判るが、鍋はただそこに置いてあるだけで暖めている様子は無い。
「普通の鍋よりずんぐりしているような?」
見かけは背の低いスープ鍋に見えるが、よく見れば鍋と鍋の蓋が妙に厚い。
その為に鍋も妙にずんぐりして見えるのだ。
「その鍋、何か仕掛けがあるんですか?」
仲居に聞く。
「私どももよくは知らないですが、昔、クッロウエルと言う方が作ってくれたという話は伺っております」
「クッロウエル」
意外な名前が出てモモエルは驚く。
クッロウエルは先代の魔法道具研究所の所長だ。
75才まで所長を勤め上げ、勇退の折に次の所長にモモエルを指名した男だった。
何故、モモエルが指名されたかは噂では、苦労ばかり多い所長になるくらいなら研究に没頭したいと古参の職員に断られて、結局は真面目だがお人好しのモモエルに白羽の矢が立った話もある。
あくまで噂であり、事の真相はクッロウエルのみ知る事なのだが、その元所長はろくな引き継ぎもせずに雲隠れしてしまったのだった。
「その鍋、見せて貰っていいですか?」
モモエルが食いつきそうな目で頼み込むが、
「ダメですモモエル様、お食事中ですよ。皆さんの迷惑ですから食事が終わってからにしましょうね」
速攻でキティーからストップが入った。
「うう、そんな」
「ダメなモノはダメです、おとなしくお食事しましょうね」
「はい」
ダメそうなので諦めておとなしく食事に専念するモモエル。
それでも諦めきれないのか、ちらちらと鍋の方を見てはキティーに睨まれてさっと目を逸らす。
「もう、子供なんだから」
キティーは心の中で苦笑する。
後書きです
やってしまいました。
なろうで童話の募集をしていたのでなんとかかきあげたのですが投稿日を間違えていました。
せっかく書いたのに投稿できず。
このまま腐らせるのも何なので、童話用にスポイルした部分をもとに戻して短編で投稿することにしました。
いつもよりケットシー物語の投稿が早いのも、童話のためだったんですが。
それにしても今回はいつも以上にほのぼのとした話になってしまいました。
来週から少し話が動きます。
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