2話「城下の黒い影 その6」
「ぐぬぬぬぬ」
とチャトーミは歯ぎしりするが、ミケラが側にいるので、
(怒鳴るとこなんて見せたら、姫様が怖がるから怒っちゃダメ)
と我慢をする。
「あらぁ、どうかいたしましてチャトーミさん」
追い打ちを掛けるようにタマーリンはコロコロと笑う。
「おいおい、タマーリン。姫様に挨拶するのが先だろ」
そこへチャトーラが助け船を出す。
「あらあらわたくしとしたことが、ミケラ様申し訳ありません」
タマーリンが恭しく、そして優雅にミケラに挨拶をする。
「ところでこんな裏道に、ミケラ様がどんなの御用でいらっしゃったのでしょう?」
タマーリンの疑問に、チャトーラがかいつまんで説明をする。
「黒づくめの怪しい男ですか?」
「逃げ足が速くてな、俺の足でも捕まえられなかったぜ」
「あらあら、走るだけが取り柄のあなたが走りで失敗するなんて。あなたから走りを取ったらたただの無能でしかないのに、強く生きて下さいませ」
とチャトーラを思いっきり見下しながらタマーリンは再びコロコロと笑う。
「うぐぐぐぐ」
「兄ちゃん我慢、姫様の前だから兄ちゃん我慢しよ」
顔を真っ赤にして、今にもタマーリンに殴りかかりそうなチャトーラをチャトーミが押し止める。
ちらっとミケラの方を見てから、
「判った、判った。もう怒ってねぇ、離せよ妹よ」
タマーリンを睨んでから、チャトーラは大きく息を吸い込む。
「兄ちゃん」
チャトーミもホッと息をつく。
「ところでタマーリン、あんた束縛の魔法は使えるかい?」
「バインドのことでしょうか?それなら人どころかドラゴンすら捕まえられましてよ」
先程の騒ぎなどどこ吹く風とばかりに、タマーリンが涼しい顔で答える。
「流石、王宮最強と言われるだけの魔術師だぜ」
歴代最強と謳われるタマーリンは、王宮魔術師として召し抱えられていたが、奔放な性格故、王宮には居着かずに街の端に居を構えているのだ。
「ちょっと手伝ってくんねえか、俺たちが黒づくめの男を見つけるからよ、そのバインドってえ奴で捕まえて貰えると助かるぜ」
「あらあらあら、わたくしもご一緒して宜しいのですか?」
本当に嬉しそうにタマーリンは笑う。
「ミケラ様、宜しくお願い致します」
「タマーリンも来るの?」
ミケラがチャトーラの方を見ると、チャトーラが頷く。
「わーい、一緒に行こう」
ミケラがタマーリンの手を取ると、手を引いて歩き始める。
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2023/09/30 一部修正
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