6話「お妃様の陰謀 07」
馬車は日が暮れる前に宿に着いた。
宿はいかにも日本風の老舗の温泉旅館という佇まいで、元日本人の武茶士が一緒に来ていたら「おおっ」と喜びの声を上げていただろう。
宿の玄関の前には着物姿の女性が数人出迎えていた。
種族は人間、ケットシー、エルフ、ドワーフと雑多だ。
「いらっしゃいませ、この宿の女将をしております。皆様の事は、メロディアン様からお話を伺っております」
タマンサ達が馬車から降りると、人当たりの良さそうな初老の人間の女性が進み出てきて頭を下げる。
「メロディアン様って誰だ?」
黒妙が首を首を捻る。
「あんたね、自分の雇い主の名前くらい覚えておきなさいよ。お妃様の名前でしょ」
「お妃様って名前有ったんだ、あはははは」
「こいつは・・・」
笑う黒妙の横で頭を抱える白妙。
「人数多いですけど、宜しくお願いします」
「可愛いお嬢さんですね」
タマンサの後ろで見上げているミケラとサクラーノに宿の女将は手を振った。
「お妃様から話は?」
「はい、伺っております。分け隔て無く、普通に扱って欲しいと」
それを聞いてタマンサはほっとする。
「ミケラ、サクラーノ、こっちへ来てご挨拶なさい」
「はーい」
二人はタマンサの前へ出てくる。
しかし、どうして良いか判らなく、タマンサの顔を見上げた。
「宜しくお願いしますと言うのよ」
「は~い」
ミケラとサクラーノは宿の女将の方へ向き直って、
「宜しくお願いします」
と元気よく挨拶した。
「はい、宜しくお願いします」
宿の女将もニコニコ笑いながら返事をする。
「かわいいわね」
宿の仲居達にもミケラ達は好評だった。
「お嬢ちゃん達は何歳になったのかな?」
「わたし6歳」
「わたし6歳」
ミケラとサクラーノが同時に答える。
「わたしの方が早く産まれたんだからお姉ちゃんだ」
「違うもん、三ヶ月しか違わないからお姉ちゃんじゃないもん」
いつものやりとりが始まる。
「ほらほら、二人ともケンカしないの」
タマンサは二人を後ろからがっしりと抱きしめる。
放置しておくと延々とこのやりとりが続くので止めに入ったのだ。
「お母さん苦しいよ」
「苦しいよ」
「だったらケンカやめる?」
「うん、やめる」
「やめる」
「よしよし、二人ともいい子ね。お母さん大好きよ」
タマンサは二人に頬ずりをする。
「わたしもお母さん大好き」
「わたしも」
ミケラとサクラーノもタマンサに抱きつく。
タマンサは二人の頭を撫でてから立ち上がる。
その時に二人に両側からタマンサの手を握った。
「お騒がせしてすみません」
ミケラとサクラーノに手を握りられながら、タマンサは宿の人たちに頭を下げた。
「いえいえ、それくらいの子ならよく有る事ですから」
宿の女将の言葉に他の宿の女性達も「気にしないで下さい」と応じる。
「そうそう、お部屋にご案内しないと。さっ、お荷物をお預かりして」
「はーい」
女将の言葉に仲居達が一斉に動き出す。
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