6話「お妃様の陰謀 05」
「お仕事ご苦労様です」
白妙は後方を見渡せる場所に座っていた。
流れゆく景色の中に、時折、身を潜ませる忍びの里の者の姿を見つけては心の中で挨拶をする。
旅人には判らないように木の陰、草の陰に身を潜める者達。
忍びの里の者の仕事は要人の警護の他に、人里に近づき過ぎた危険な獣の駆除、他国からの盗賊等の不埒モノの侵入阻止だった。
王国内で事件になる前に人知れずに処理するのが忍びの里の者達の役目。
こうして馬車が獣にも襲われず、盗賊の類いにも出くわさないのは忍びの里の者達が道を巡回していくれているおかげなのだ。
人知れず、里の者達は王国内を駆けずり回り、影ながら王国の治安を守っている。
その事に白妙は誇りを持っておりいずれ自分も里を出て、王国内を回る事になるだろうと思っていた。
だが心のどこかに幼年組の先生をしたいという思いも捨てきれないでいるのだ。
「ダメだなわたし」
諦めきれない自分に溜め息をつく。
「溜め息ついたりして、どうしたの?」
いつの間に側に来たのか、タマンサが白妙をじっと見つめる。
「いえ、なんでもないです」
白妙は慌てて笑って誤魔化そうとしたが、
「姉ちゃん、本当は幼年組の先生になりたいんだけど、父ちゃんは上忍になれって言われてるから。その事を考えていたんだよね」
「黒妙、家庭の秘密をべらべらしゃべるんじゃ無いわよ」
白妙は黒妙の口に指を突っ込んで両側に引っ張る。
「ごへんなさい、ごへんなさい」
口に指を突っ込まれて、目を回し涙目で謝る黒妙。
「まあまあ、それくらいにしてあげなさいな」
タマンサが白妙の手に手を置いて止めさせる。
「あなたも色々と苦労があるのね、それでもいつもミケラを護衛してくれていたんでしょ?ありがとう」
タマンサが、優しく微笑む。
「いえ、任務ですから」
ミケラの護衛をするのは好きだし楽しいからとは流石に言えなかった。
「う~んと」
タマンサは何かを考えるように天井を見上げてから、
「あなた、ミケラ専属にならない?」
突然の申し出に白妙は返答に困って仕舞う。
王族や国の重鎮には忍びの里から数人、専属で警護に就く事になっている。
ミケラはまだ小さいので回り持ちになっていて、専属の警護はまだいないのだ。
嬉しいのだが、タマンサはミケラの乳母であり王族でも無ければ、何か権力を握る立場でも無い。
ただの一般人でしか無いのだ。
「大丈夫、大丈夫。わたしがそう決めたってお妃様に言えばそれで決まりだから」
タマンサはのほほんと笑う。
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