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五話「ミケラの日 54」

「そ、そんなに状況は悪いのですか?」

 恐る恐るタマンサが尋ねた。

「6年前より悪いわ」

 悪夢の6年前、タマンサの夫は6年前に砦で命を落としたのだ。

 




 ケットシー王国の北の果てに大きな山がある。

 名をボルケーノ、火山であるがここ数十年噴火の兆候すら見せた事がない。

 ボルケーノの中腹に大型ドラゴンすら通れる程の巨大な洞窟があるのだが、その洞窟の奥からたまに魔獣が姿を現す。

 姿を現す魔獣の数は少なく、山から下りてくる事も滅多にないのだが、数年に一度、大量に魔獣が湧き出してくる事があるのだ。

 湧き出した魔獣の群れは一気に山を下り降り広がると、方々で大きな被害をもたらしていた、

 100年前、魔獣の被害を食い止めるため、ケットシー、エルフ、ドワーフ、人間が共に手を取り合い砦を築き、魔獣の進行の防波堤としたのだった。

  砦がケットシーの領地の北端に位置する事から、砦の維持管理はケットシーが主に行い、各国から派遣された兵士が常駐している。

 6年前、例年以上の数の魔獣が押し寄せ激戦となり、大勢の者達が命を落とし、その中にタマンサの夫もいたのだ。

「人間達もドワーフ達もエルフ達も精鋭を派遣したそうだよ、気をつけて行っておいでタマーリン」

 子供の頃に忍びの里を半分焼き払ったタマーリン、その頃より魔力も魔法の威力もは格段に高くなっている。

 そのタマーリンを出すと言う事は相当な事態なのだ。

「わたくしが行くのですから、大船に乗ったつもりで待っていて下さいまし」

 軽く微笑んでからタマーリンはきびすを返して部屋を出て行った。

「モモエル、ミケラ様の事お願いね」

 その言葉の後、玄関のドアが閉まる音が響く。

「それであんたはどうするマオ?城に来るならミケラの部屋の隣を空けるわ」

 マオは考え込むが、やがて、

「タマンサの事が心配じゃから、家に残る。何故、タマンサにあんな大きな闇が宿ったか謎じゃからな。家からここまでなら近いからのう、様子を見に来やすい」

「だったらいっその事、ここに住みなさい。家に帰ってもあなた一人なんでしょ?その武茶士という方が帰ってくるまでここに居なさい、はい、もう決まり」

 タマンサがマオの返事を聞かずに決めてしまう。

 マオが何か言いかけたが、

「無理無理、母さんがああ言い出したら何言っても無駄だから。しばらくよろしく」

 ロレッタがマオの肩をポンポンと叩いた。

「それなら、あなたも旅行に付き合いなさい」

 お妃様も一方的に決めてしまう。

「それとモモエル、あなたも旅行に行くのよ。サビエラがあなたが無茶ばかりして困るって泣いていたわよ。休みなさい、イヤだと言ったら牢屋に入れてでも無理矢理休みを取らせるわよ」

 もう脅迫だった。

「は、はい」

 モモエルには「はい」と言うしか選択肢はない。

「それとキティー、あなたも旅行に付いて行ってモモエルの健康管理お願いね」

「はい」

 キティーは喜んで了承した。

 キティーはサビエラと同じくらいモモエルの健康が心配だったのだ。


「それじゃ、旅行の日取りが決まったら知らせるから。遅くても10日後までには準備するから、そのつもりであなた達も仕度しておきなさい」

 そう言い残すと、お妃様は自分の影の中に消えていってしまう。

 消える瞬間、お妃様がにまっと笑うのを黒妙は見逃さなかった。

「姉ちゃん、悪い予感しかしないんだけど」

 白妙も気がついていたようで、諦めのため息を漏らした。




数日前の話


「そうか、アンは元気になったか」

 優しそうな年老いたケットシーが嬉しそうに笑う。

 アンとはお妃様の家族内の愛称で、本当の名前はメロディアンと言う。

「ええ、元気すぎてわたくし散々怒られましたわ」

 モモエルをそそのかして国家機密の魔法投影機を持ち出した事で、イヤと言う程お妃様に怒られたのだ。

「済まないな、アンは両親が老いてから産まれた子で、わしらも妹と言うより娘のよう存在だったのでな。つい皆で甘やかしてしまった」

 老人は懐かしい事を思い出すように笑う。

「まるでミケラ様みたいですわね」

 タマーリンも微笑む。

「ミケラ様には本当に感謝してますのよ、こうしてお爺様に合わせていただいたのですから」

 ミケラの力はその者が心の底から望む癒やしの具現化だ、タマーリンは心の底で亡くなったお爺さんとの再会を望んでいたのだった。

「そうか、アンの娘が・・・か。よくお仕えするのだぞ」

 ミケラは妹の娘ではあるが、ケットシー王国の王女でもある。

「はい、この身が朽ちるまで生涯お仕え致しますわ」

 現実ではあり得ないほどに美しい花の咲き乱れる花園の真ん中に、ぽつりと置かれた純白のテーブルでお茶を啜りながら、タマーリンと老人の会話は続く。

「ミミも馬鹿な子ね、せっかくミケラ様があなたが会いたいと心の底から願っているお姉さんに会わせてくれたのに、あんなに怯えるなんて」

 タマーリンがそっと漏らす。



「ハックチ~ン」

「どうしたミミ、カゼかじゃん?」

「四露死苦?」

 前を飛んでいたミミが、突然くしゃみをしたので驚くシルゥとリー。

「妖精は風邪ひかないし、病気もならないよ」

「それはそうかじゃん」

「四露死苦w」

「たぶん誰か噂してるのかも」

「おっ、モテる女は辛いじゃん」

「四露死苦、四露死苦」

「馬鹿言ってないで、姫様の部屋行くぞ」

「お~~っ」

 こうして小妖精達はまた、ミケラの部屋で幸せそうに笑いながらぶっ倒れているタマーリンを見つけるのであった。


恒例、後書きの時間です

「ミケラの日」はこれで終わりです。


「ちょっと待って、あたいたちの出番これだけ?」

「そうじゃん、レギュラーじゃん、毎回活躍してるじゃん」

「夜露死苦」

「もっと出番増やせ」

「増やさないと毎晩夢枕に立って胃に穴を開けるじゃん」

「夜露死苦」


という事で、夢枕に立たれて胃に穴を開けられたくないので小妖精たちの出番を次は増やします。

次回から「お妃様の陰謀」がスタートしますのでよろしくお願いしますね。


                   (Copyright2022-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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