五話「ミケラの日 53」
「温泉?それなんです?」
聞き慣れない言葉にタマンサとロレッタが顔を見合わせる。
「お風呂よ、地面の下からお湯が沸いてくる場所を温泉というの」
「お湯・・・お湯に浸かると毛が痛むから・・・」
ケットシーは猫と同じでお風呂は好まない、毛がお風呂に何度も浸かると痛むからだ。
「それが大丈夫なの、そこのお湯は毛並みも良くしてくれるのよ。わたしも一ヶ月当時をしたけど、ほら見て見て、毛並みがこんなに艶々になったわ」
お妃様が腕まくりをして自分の毛並みを見せた。
確かに年齢の割にはかなり艶々の毛並みだ。
女性陣の目がキラ~~ンと光った。
「おっきさっきさま、その温泉、どこにあるのかしら?」
タマンサが目をキラキラさせて猫なで声を出す。
「あらぁ、興味を持ったの?でも、あなたもあと少しで40のオ・バ・サ・ンよね?」
やたらとおばさんの部分だけ強調する。
「あらやだ、わたしよりず~~~~~っと年上のおばあちゃんが何か言っているわ」
「おほほほほ」
「うふふふふ」
二人の間に火花が散る。
「母さん、いい加減にしなさい。お妃様も母さんを挑発するの止めて下さい」
ロレッタが間に入って止める。
「だってお妃様が」
「だってタマンサが」
ロレッタにぎろっと睨まれて二人ともしょぼんと萎む。
「で、温泉の話は本当なんですか?毛並みが艶々になるって」
そこへ空気を読まない黒妙さんが遠慮なく聞いてくる。
「えっ、聞きたいの?聞きたいわよね、そうよね女の子だものね」
一気に復活するお妃様。
「まっ、その話は後にするとして。旅行行ってきなさい、タマンサ。忙しくて家族で旅行なんて行っていないでしょ?」
「ええ、まあ」
素直に頷くタマンサ。
「ミケラだってあなたとの旅行は喜ぶわよ」
「判りました、行きます。旅先でミケラともっと仲良くなって「もうお城には帰らない」って言わせたやるわ」
燃えるタマンサであった。
「白妙、黒妙。あなた達は引き続きミケラの護衛を任せるからよろしくね。当然、あなた達も旅行には同行するのよ」
「はい、お任せ下さい」
「はい、喜んで」
白妙も黒妙も内心、旅行には同行出来ないのではビクビクだった。
ここまで話を聞いてはずされるのはかなりショックだ。
同行を正式に命令されたので顔は、二人とも顔がにやける。
「二人とも締まらない顔はおやめなさい」
お妃様はつい溜め息をついてしまう。
「それとマオ、武茶士は当分帰らないわ」
「武茶士はどうしたのじゃ?」
「砦に行って貰いました」
それだけでマオは納得した。
「そうか、あやつも勇者としての務めを果たす時が来たのじゃな」
「タマーリンにも武茶士を追って貰うわよ」
その言葉に部屋の中が静まりかえった。
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