五話「ミケラの日 49」
「お妃様!」
タマンサは驚きの声を上げた。
声の主はお城にいるはずのお妃様だったから。
「お久しぶりね、タマンサ」
お妃様は懐かしそうにタマンサに声をかける。
「よく、わたしの前に顔を出せたなこのくそ婆!あんたのおかげでどれだけ苦労したと思ってるの!サクラーノが産まれたばかりなのに夫が死んで、そこへ更にミケラの面倒を見ろと言ったきり5年間音信不通。帰ってきたと思ったらいきなりミケラを取り上げて、返せ、ミケラを返せ。ミケラはもうわたしの娘なんだから!」
タマンサは一気にまくし立てると、
「あ~~っ、すっきりした」
とすっきりした顔でニコッと笑う。
「本当にごめんなさい」
お妃様はタマンサを抱きしめて謝る。
「やだ、わたしとお妃様の仲じゃないの」
タマンサはクスクス笑う。
「かなり溜まっていたから鬱憤晴らしで言っちゃったけど、でも半分は本当ですからね。それと、ミケラがわたしの娘というのは本気の本気ですよぉ」
「悪かったとは思っているよ、でも、あの時、お乳が出てミケラを任せられるのがあなたしかいなかったから王様も苦渋の決断だったというのは判っておくれでないかい?」
タマンサは溜め息をつくと、
「そんなの判ってますよ、王様だって知らない仲じゃないし。優しくていい王様だって判ってますから。でもそれとミケラの事は別だから」
どうやらタマンサとお妃様はかなり親密の仲のようだ。
「まっ、その話は長くなるから後にしよう。それよりマオと言ったか?先ほどの話はどういうことです?」
マオに話が振られる。
「ああ、さっきの話じゃな。予は魔物の王、魔王じゃ。よって予には闇の力が見える、タマンサの中には人が持ってはならぬ程の闇の塊が見えるぞ。その闇がタマンサの身体を蝕んでいる元凶じゃ」
「だからわたしの回復魔法が消えてしまったのね」
お妃様の後ろには、タマーリン、モモエル、キティーが居た。
「そうじゃ、あの闇の大きさでは中途半端な回復魔法など焼け石に水じゃろうな」
マオの説明にキティーは納得できないという顔をしたが、自分の回復魔法が無力だったので何も言い返せなかった。
「でも、回復魔法を使って貰うと少しは楽になるのよ」
タマンサがキティーや自分を治療してくれた回復術士達を庇う。
「焼け石に水でも、少しは石の温度は下がるからじゃろう」
「あっ、そう言う事か」
キティーは理解した、回復させられなくても病気の進行は止められてはいたのだと。
「役には立っていたのね」
幾人もの回復術士がタマンサの治療に当たり、闇の前に破れてきた。
でもそれは無駄ではなかったのだと言う事を。
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