五話「ミケラの日 47」
「だったらあなた達、タマーリン様にお礼を言いなさい。これはタマーリン様が教えてくれたんだから」
ロレッタの言葉に、ミケラ、サクラーノ、モモエルは、
「タマーリン、ありがとう」
口を揃えてお礼を言う。
その陰でキティーも小さな声で「タマーリン様、ありがとうございます」と言ったのは誰も気がつかなかった。
「うふふ、いいのですわ。ミケラ様に喜んでもらえるなら、わたくしにとっては何よりのご褒美ですから」
と言いつつ、タマーリンは自分たちの運んできたテーブルの方をチラチラ見る。
モモエルはタマーリンが何を言いたいのか気がつき、
「エホン、エホン」
とわざとらしい咳をしながらロレッタに目配せをする。
「何?何なのよ?」
ロレッタはタマーリンとモモエルの怪しい挙動に「何があるの?」と考え込むが、タマーリンが二人が運んできたテーブルの方をチラチラと見るので、ようやく気がつく。
「ミケラ、テーブル二つに増えているでしょ?」
「あっ、本当だ。二つになっている」
ミケラは言われて初めて気がつく。
「タマーリン様とモモエル様がみんながテーブルで食事が出来るように借りてきて下さったのよ。偉いわね」
「うん、タマーリンとモモエル偉い」
ミケラは無邪気にタマーリンとモモエルを褒めた。
「ここまで苦労して運んだ甲斐がありましたわ」
「うんうん、本当に重かったモノね」
ミケラのお褒めの言葉に、天にも昇る笑顔でタマーリンとモモエルは抱き合って喜ぶ。
その瞬間、白妙が素早く自分の手で黒妙の口を塞いだのは言うまでもない。
それから今日はどんな遊びをしたかをミケラとサクラーノ、マオが身振り手振りで説明して楽しい一時が過ぎた。
「ミケラ、サクラーノ。もう寝る時間でしょ、お風呂場に先に行っていなさい」
「はーい」
二人は手を取り合ってお風呂場へ向かう。
「さてと」
ロレッタも台所からお湯の入った桶を持ってお風呂場に向かう。
ロレッタがお風呂場に着くと、二人は既に服を脱いで待っていた。
お風呂場と言ってもお湯を貼る風呂桶など無く、排水用の溝がある土間の上に木のすのこが引いてあるだけの簡素なモノだった。
「お待たせ、じゃ、先にサクラーノからやっちゃおうか」
ロレッタはタオルをお湯につけると軽く絞ってサクラーノの身体を拭き始めた。
ケットシーは猫の妖精だ、当然、猫と同じく身体が水で濡れるのは嫌いだ。
なのでお風呂と言っても、身体をお湯で拭くだけで済ましてしまう。
週一回、公衆浴場には出かけるが、そこも蒸気風呂、いわゆるサウナであり最後に身体のほてりを冷ますために水をかぶる程度だ。
この話をチャトーラに聞かされた生前は風呂大好きだった武茶士は、かなりショックを受けたが、
「お湯につかりすぎると毛が痛むぞ」
と言われて泣く泣くお湯のお風呂を諦めたのだった。
ケットシーの身体は猫の毛で覆われていて、猫の毛はお風呂に入りすぎると痛むのであった。
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