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五話「ミケラの日 46」

「はーい、お待たせのにんじんだよ」

 ロレッタがお皿にスティック状に切ったにんじんの山盛りを持ってきて、テーブルの上に置く。

 置かれた瞬間、バターの香りがお皿から溢れ出す。

「さっ、ミケラ、サクラーノ。食べて食べて」

 ロレッタに名指しされ、ミケラとサクラーノは恐る恐るフォークににんじんを刺して、しばし眺める。

 タマーリンに美味しいと言われた時は食べる気満々だったが、いざ目の前にこうして置かれるとやはり躊躇してしまうのだ。

 二人は顔を見合わせて、頷くと目をつぶって口の中に入れた。

 口に入れた瞬間、バターの香りが口の中に広がり、バターと塩胡椒が舌を刺激する。

 思い切って噛む・・・なんとも甘い味が舌の上を転がった。

「美味しい」

「美味しい」

 ミケラとサクラーノの食べる前の表情と、食べた後の表情が一変する。

 心の底から幸せそうな笑顔で二人はにんじんを食べているのだ。

「わたし達もいただきましょう」

「は~い」

 二人の幸せそうな笑顔に周りの大人達も自然と笑顔がこぼれる。

「あら、本当に美味しいわ」

「お、美味しい」

 モモエルとキティーが驚きの声を上げた。

 どうやら二人とも、にんじんは苦手のようだ。

「ロレッタ、レシピ教えて」

 モモエルが叫んだ。

「これ、タマーリン様に教わったんですよ」

「タマーリン、レシピ教えなさいよ!」

 掴み掛かる勢いでタマーリンに詰め寄るモモエル。

「ちょ、ちょっと顔が近いですわ」

 モモエルの顔を両手で押し戻すタマーリン。

 それから紙に鉛筆でさっとレシピを書き上げ、モモエルの顔に押しつける。

「これだけですの?」

「そう、簡単でしょ。わたくしも小さい頃はにんじんが嫌いでしたの、でもそのレシピでにんじん嫌いが直りましたのよ」

 タマーリン自慢のにんじん嫌いを直す魔法のレシピだ。

 タマーリンは亡くなったはおじいさんに教わったのだが。

「でも、どうしてそんなにこのレシピを知りたがるのかしら?もしかしてあなた」

 タマーリンは意地悪く笑う。

「ち、違います・・・わ、わたしがにんじんが嫌いなわけでは・・・・・・そうよ、キティー!キティーがにんじんが嫌いだからキティーのために」

 キティーの押しつける。

「そんな、モモエル様だってこの前の食事の時に、にんじんをお皿の端に避けていたじゃないですか」

 醜い争いが始まった。

「べ、別に避けていたわけじゃ・・・・・・そ、そうよ、好きだから・・・好きだから、好きなモノは後でまとめて食べようと集めていただけだから」

「でも、サビエラさんにめちゃめちゃ怒られてましたよね?」

「うっ」

 キティーのトドメの一撃にモモエルは撃沈した。

「はい、わたしもにんじん食べられません」

 モモエルは白旗を上げて降伏する。

「モモエルもにんじん嫌いなの?わたしと同じだ」

 ミケラのその一言に沈んでいたモモエルの顔がぱっと明るくなる。

「そうです、わたしもミケラ様と同じでにんじんが嫌いなんです」

「でも、これを食べたらにんじん好きになったかも」

「そうですね、本当にこれは美味しいです」

 ほくほくの顔でミケラとモモエルは顔を見合わせた。


(Copyright2022-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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