五話「ミケラの日 40」
タマーリンとモモエルは、近所にテーブルを借りに出た。
二人ともミケラと夕食を共にするつもりでいるのだが、全員座るだけの席がないからだ。
幸い、椅子はかき集めれば足りそうだったが、流石にテーブルは無理だった。
あちこち、近所を回った結果「モモエル様の頼みなら」と快く貸してくれる家があったので二人で運ぶ事になったのだ。
「重いですわね」
「本当に重いですよね」
二人は顔を真っ赤にして「ふーふー」いいながら運ぶ。
白妙と黒妙がいればもっと楽に運べたのだろうが、二人は本来の任務であるミケラの護衛のためにミケラ達に付いて行ってしまっている。
今頃はミケラ達と楽しく遊んでいる頃だろう。
元々、タマーリンは貴族のお嬢様育ちで今は魔術師などやっているので力仕事とは無縁なのだ。
モモエルも重いモノは大抵、力自慢の所員が運んでくれるのでタマーリンより少しましくらいの力しかない。
それに借りたテーブルは四人がけで見た目は小さいが、足がかなり頑丈に作られており、持ってみると意外と重かった。
それでも二人して運ぶのはただ単に、ミケラと夕食を食べるという思いだけで運んでいるのだ。
タマーリンの魔法で運べば、こんな苦労をする必要が無いはずなのだが、
「とても重かったんですけど、二人で頑張って運んだんですよ」
と言うのを強調して、ミケラに褒めて貰いたいという下心があったので、暗黙の了承でその案はどちらも口にしなかったのだ。
ミケラが絡むととことん馬鹿になる二人であったが、馬鹿の一念で頑張るのであった。
「ミケラ様、お待ちくださいね」
「テーブルは必ずわたし達二人で運んで見せます」
薄らと笑みを浮かべながら、タマーリンとモモエルは重いテーブルを運ぶ。
ロレッタとトランスロットは夕食の買い物に出ていた。
「今日は荷物が多いから、荷物持ちに付いて来なさい」
とトランスロットはロレッタに無理矢理引きずられていったのだ。
キティーは留守番として残る事になった。
「お部屋に入ってかまわないですか?」
モモエルに具合が悪いと聞いていたので、気になってタマンサの部屋を尋ねる。
「はい、どうぞ・・・あら、なたは?」
「わたし、キティーと言います。最近、モモエル様の下に配属されました。回復術士をしてます」
キティーは少し緊張したのか、早口で自己紹介した。
「まあ、モモエルの下で回復術士を。小さいのに偉いわね」
タマンサはニコッと笑う。
(Copyright2022-© 入沙界 南兎)