五話「ミケラの日 37」
「は~い、どなたですか?」
ロレッタが入り口のドアを開けると、外に二人の男が立っていた。
一人は小柄でがっしりとして身体に甲冑を身につけたひげもじゃの男、もう一人はクロの革ジャンにクロのパンツを履いた長身で銀長髪のケットシー。
「ドワーフ?」
王宮内にもドワーフは数人いるので何回かは見た事はある、街の近くにドワーフの工房があるのでそこの職人が街に買い物に来る事もある。
しかし、来るのは商店街か繁華街くらいだ。
こんな住宅街にまで来る事はない。
そのドワーフが何故、自分の家に来たのか首を捻るロレッタ。
「わしはトラマンチャから来た、ドン・キジホーテと申す」
「トラマンチャですか、ずいぶん遠くからおいでになったんですね」
トラマンチャは王国の南の端にある小さな街で、馬車で四日はかかる。
「俺はドンの旦那の従者でサンチョ・パンサー。サンチョと呼んで下さい、お嬢さん」
サンチョと名乗った男はロレッタに恭しくお辞儀をする。
ロレッタは銀髪の男にドン引きしたが、顔には出さない。
「何のご用でしょう?」
ロレッタはとりあえず用向きを聞く。
「坊、こっちへ」
サンチョの後ろからトランスロットが姿を現す。
「トランスロット、お昼も食べないでどこに行っていたの?」
「お嬢さん、坊を責めないでやって下され。わし達がこの街の入り口まで来たら、坊が入り口の門の影で泣いておったのでな・・・何か辛い事があったのかもしれん。何も聞かずにいていてやってくれんか・・・ほれ坊」
ドンはトランスロットの頭を後ろから押しながら共に頭を下げる。
「頭を上げて下さい、弟をわざわざ送っていただいてありがとうございます」
ロレッタは慌ててドンに頭を上げて貰った。。
「さっ、坊。家に入って昼飯食え、そうすれば元気も出るぞい。がはははははは」
ドンはトランスロットの背中を勢いよく叩き、豪快に笑った。
「ほらトランスロットもお礼を言って」
「うん、ありがとうドン」
「なんのなんの、義を見てせざるは勇なきなりじゃ。ドン・キジホーテは騎士である、騎士が困っている子供を助けるのは当然。気にせんで良い」
ドンは再び豪快に笑う。
「ところでお嬢さん」
「はい、なんでしょう」
「わし達、王様に呼ばれて王城に向かわねばならぬのだが、王城はここからどう行けば良いのかのう」
ドン達は王様のお客のようだ。
「お城はこの道を真っ直ぐ行って、突き当たったら右を向けばお城が見えますよ」
ロレッタは指を指して道を教える。
「かたじけない、では行くぞサンチョ。わしに続け」
ドンは何故かロレッタが教えたのと反対方向へと走り出した。
「旦那、反対ですよ。止まって下さい」
サンチョが慌てて止めようとしたが、ドンは聞こえなかったのかそのまま走り続ける。
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