五話「ミケラの日 30」
「何だ、俺たちを集めて何をするんだ」
ペルタが聞いてくる。
「あのね、今の見てたよね。今度は白妙と黒妙がサクラーノに変わって引っ張ってくれるの。それでマオちゃんがみんなを抱いて飛んでくれるって」
ミケラの説明では意味が伝わらなかったようで、子供達は顔を見合わせる。
「予が一人を抱いて空を飛ぶ、予だけではスピードが遅いから白妙と黒妙が引っ張ってスピードを付けてくれるという事じゃ」
ミケラに変わってマオが新たに説明をした。
「おおぉっ!」
子供達の間から歓声が上がる。
「でも大丈夫かマオ、11回も飛べるのか?」
黒妙が心配して聞いてきた。
「11回?」
マオは黒妙の言った回数に首を捻る。
「だって黒猫の参加者は11人だから、11回飛ぶんだろ」
黒妙は自信満々に答えた。
「マオはみんなを抱いて飛ぶから、マオの分を引いて10回でしょ」
白妙が地面に絵を描いてわかりやすく説明してくれた。
その目は「もっとしっかり勉強しなさいよね」と黒妙を睨んでいたが。
「そうか。流石姉ちゃん、教えるのは上手だ」
白妙に説明して貰ってようやく黒妙も理解したようだ。
「でも、予が一人で飛ぶってのもありじゃないか」
話を聞いていたペルタが横からツッコミを入れた。
「おっ、それもありだな。流石ペルタ、我が弟子よ」
黒妙がペルタに抱きつく。
「誰が弟子だよ、抱きつくなよ」
ペルタが顔を真っ赤にして黒妙の腕の中から逃げた。
「顔を真っ赤にしよって、愛い奴よ」
「子供に馬鹿なことしない!」
イヤラシく笑う黒妙の頭を白妙が手加減なしで張り倒す。
「予だけで飛ぶというのも面白いかもしれぬ、引っ張って貰えばスピードもまるで違うからのう」
話を聞いていたマオは乗り気のようだった。
順番を決めて、マオが子供を抱いて飛んだ。
小さい子は最初、びっくりして悲鳴を上げたりしていたが広場を一周して戻ってくる頃はほとんどの子が笑っていた。
人気は上々のようだ。
サクラーノが「わたしも引っ張る」と言って全員に反対されたり、黒妙が「もう一回飛ぶんだ」と子供のようにだだをこねた以外は、概ね問題なく終わった。
最後はマオが一人で飛ぶ。
「わたしと黒妙とどっちがいい?」
白妙に聞かれ、マオは一周迷うが、
「サクラーノが良いのう」
と言う返事に周りが一斉に驚く。
「予、止めておけ。命は大事だぞ」
「そうよ、挑戦と無謀は別物よ」
周りは本気で止めにかかる。
「サクラーノが手を離すの失敗したら、またさっきみたいになるよ」
ミケラすら止めに来た。
「その時はその時じゃ、始めから予想がつておればなんとかなるもんじゃ」
マオは笑う。
「わたしだってちゃんとできるんだから、失敗なんてしないよ」
サクラーノは元気よく自信満々に言い切った。
その言葉に何度も欺されてミケラ達はひどい目に遭ってきたわけだが。
「よいよい、その時は予がなんとかするから。サクラーノは思いっきり走ってくれてかまわぬぞ」
「うん」
マオの言葉にサクラーノは元気よく返事をした。
「ではいくか」
マオはサクラーノの手を取ると翼を広げて宙に浮く。
子供達はサクラーノの邪魔にならないように道を空けた。
「いつでも良いぞ」
「うん、ちゃんと手を離すからね」
サクラーノは息を思いっきり吸うと、
「いくよ!」
声と共にサクラーノが猛ダッシュをする。
それはミケラが知るどの時よりも速かった。
猛烈な風圧がマオの顔にかかる。
「1・2・3・4・5ストップ」
5を数えると同時にサクラーノは止まり、握っていたマオの手を離す。
マオの身体がミサイルのように空中を疾走した。
直ぐにマオは顔を上に向け身体も反らすと、上空目指す軌道に変わりマオの身体は上へと上へと上っていき、ついには点のようになってしまう。
子供達が目を懲らして上を見ていると点が次第に大きくなり、マオは螺旋を描くようにして下降してくるとゆっくりと空き地に着陸した。
「面白かったのじゃ」
満面の笑みを浮かべ、両手を広げてガッツポーズをするマオ。
「すげぇ、サクラーノのあれに耐えたぜ」
「勇者だ、勇者だ」
その後、しばらくマオは子供達から勇者と呼ばれるようになったとさ。
最近、マオばかり活躍してミケラが目立たないような。
そのうちに「ミッケラーーン」と言って消えてしまうかも(笑)
困ったことにここから先、ますますミケラの出番が減ります。
次の話はミケラとサクラーノが出ずっぱりになるんですけどね。
伏線回収なので、ミケラファンの方しばしご辛抱ください。
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