五話「ミケラの日 17」
「それでマオ、ミケラ様とサクラーノの間に虹の光がつながるというのは本当なの?」
「本当じゃ、それにミケラが他のことに気を取られると消えるから、ミケラから出ているのも確かじゃな」
モモエルはそれをメモ帳に書き込む。
「他に気がついたことは?」
「その光に回復と言うかなんらかの効果があるようじゃ、ミケラの母親・・・タマンサとか言ったか、あの者の身体の奥に闇が取り憑いておるがその光に包まれて闇が小さくなっておったからのう」
「えっ、闇を!闇を払うなんてかなりの高位の神官でないと無理なのよ」
食いついてきたのはキティーだった。
「払ってはおらぬ、小さくしただけじゃ」
キティーの勢いにタジタジとするマオ。
「そうですわよキティー、ミケラ様にそんな強い力はありませんから」
タマーリンが口を挟んできた。
「回復にしても初級レベル程度の効果しかありませんもの」
訳知りのように語るタマーリン。
「でもミケラ様のお力は回復ではありませんからね」
モモエルがその後を繫ぐ。
「そうじゃな、ミケラの力は予の闇の力も回復したからのう。回復魔法で予の闇は回復するなどあり得ぬ」
マオの言葉にキティーは驚きを隠せなかった。
闇を回復する回復魔法など存在すること自体信じられないからだ。
「ど、どういうことですかタマーリン様」
訳がわからなくなってタマーリンを見上げた。
「ミケラ様の力は癒やし、心の奥に潜めた心底から願っている癒やしを与えて下さるの。ミケラ様の力の前には闇とか光とか関係ないようですわ、ただ心の底で求める癒やしを癒やすだけ」
「そ、それって聖じ・・・・・・」
キティーが口にしようとした言葉をタマーリンとモモエルが素早く遮った。
「それは違いますよキティー」
「そうよ、ミケラ様のお力はもっと別の力ですわ」
「で、でも伝承に聞く力に似てますが」
キティーは納得できずに引き下がろうとしなかった。
「今も言ったでしょ、ミケラ様の力は回復魔法としては弱すぎます。サクラーノと力を合わせてもやっと初級程度の力しか有りませんのよ」
「そうよ、サクラーノにはミケラ様の力を増幅させるていますけど、それでもあなたの回復能力にはまるで及ばないの。それを変に騒ぎ立てたらどんなことになるか、あなたには判るでしょ?」
キティーはようやく、タマーリンやモモエルがなにを言おうとしているか判った。
変に騒ぎ立てればそれはミケラへの期待へとなり、その期待に応えようとしてプレッシャーになるのだ。
キティー自身、小さい頃から回復魔法が得意で田舎では神童ともてはやされてきた。
皆がキティーに期待してキティーもその期待に応えようと頑張ってきた。
しかし、その期待が重いプレッシャーとなって何度も押しつぶされそうになったこともあったのだ。
モモエルもタマーリンも子供の頃から天才と呼ばれていたという。
タマーリンなど、その才能故に誘拐されたこともあるのだ。
二人とも周囲の期待の重さはよく知っている。
この二人はミケラにその苦労を味合わせたくないのだと言うことを理解できたのだ。
「モモエル様もタマーリン様も、本当にミケラ様のことを心の底から愛していらっしゃるのですね」
キティーは目からウロコが落ちた目で二人を見た。
「ようやく判ってくれましたのね、ええ、わたくし達は心の底からミケラ様を愛していますわ」
「そう、もし万が一王国が滅ぶようなことがあっても、私たちでミケラ様は守って立派に育てて見せますわ」
タマーリンとモモエルは「イエ~~ィ」と言いながらハイタッチをする。
何故この二人がハイテンションなのか、キティーは不思議そうに見る。
まだ、この二人の本性に気がついていない幸せな瞬間だった。
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