五話「ミケラの日 14」
「おやめなさい」
慌てて白妙が黒妙の口を塞ぐ。
「済みません、済みません。妹が空気読めなくて済みません」
白妙が平謝りに謝る。
「姉ちゃん、なに言ってんのさ。空気なんて読めるわけないじゃない、空気に字なんて書いてないんだから、書いてないモノを読めるわけないよ」
空気を読めない黒妙が文句を言う。
「うふふふふ、白妙に免じて許しますわよ。その代わり、黒妙を一発殴らせなさい」
頬をピクピクさせながらタマーリンは腕まくりをした。
「ね、姉ちゃん」
助けを求めるように白妙を見る黒妙。
「諦めなさい、げんこつ一回で済むなら安いモノよ」
白妙が諦め気味にため息をつく。
「そ、そんな」
頼みの綱の姉に見捨てられ、黒妙は情けない顔をした後、覚悟を決めて目をつぶった。
「ダメ、黒妙をいじめちゃダメ」
助け船は意外なところから来た。
ミケラがタマーリンの前に出て手を広げ、通せんぼをしたのだ。
「み、ミケラ様」
覚悟を決めた黒妙はほっとし、タマーリンは、
「わたくしは別に黒妙をいじめているわけではありませんのよ・・・そう、社会のルール・・・・・・社会のルールを教えて差し上げていますの」
苦し言い訳をする。
「社会のルール?」
と頭を捻る。
ミケラにはまだ難しい話であった。
「そうですわミケラ様、黒妙にはしっかりと社会の厳しさを知ってもらう必要があります」
白妙がタマーリンの味方に付いた。
「そんなお姉ちゃん」
姉の裏切りに黒妙は甘えるような声を出す。
「黙りなさい、あなたのその空気を読めなさ加減のせいでわたしがどれだけ迷惑しているか判っているの?さっきだってお妃様に怒られるし・・・あなたも忍びの里の者ならもう少し空気を読みなさいよね」
一気にまくし立てる白妙。
「でも空気に字なんて書いてないから読めって言われても読め・・・あたたたっ」
「その口がすべての原因よ、その口が」
白妙は黒妙の頬を掴んで外側へ思いっきり引っ張った。
「ごめんにゅふぁい、ふるしておねえひゃん」
「反省した?」
白妙に睨まれて黒妙はコクコクと首を縦に振る。
「そうそれならいいわね・・・・・・タマーリン様どうぞ」
白妙は黒妙の頭を差し出す。
「どうぞ」
黒妙も覚悟を決める。
「えっ・・・・・・え、ええ」
狼狽するタマーリン。
さっきからミケラがじっとタマーリンの目を見上げているのだ。
これは「黒妙をいじめないで」と目で語っている、ここで手を出したらいけないパターンなのはタマーリンでも判る。
ミケラの目から目を逸らすと、
「もうよろしくてよ、白妙がわたくしの代わりに叱ってくれたようですし。ここはミケラ様の顔を立てて穏便に済ませましょう」
やたら「ミケラ様」を強調して、タマーリンは穏便に事を納める方を選んだ。
「ミケラ様、ありがとうございます」
黒妙が感激してミケラの手を掴んだ。
「良かったね」
ミケラはニコッと笑った。
「ミケラ様、わたしのことはこれから犬と呼んで下さい。一生付いて行きます」
「犬?黒妙はケットシーだから犬じゃなくて猫だよ」
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