五話「ミケラの日 11」
「おっと、さすが白妙ね。伊達にミケラ様の護衛を命じられてないわね」
モモエルは双眼鏡を抱えたまま慌て屋根に身を隠した。
「モモエル様、わたしたちここで何をしているんですか?」
モモエルの後ろでキティーが聞く。
「さっき説明したでしょ、ミケラ様が遊びの最中にでもケガをしたら大変でしょ。その時は私たちが助けに行くのです」
モモエルが屋根の上で出かける前に説明したことを再びキティーに説明する。
「過保護だと思いますけど」
キティーはやれやれと肩を竦めた。
「なにを言っているのキティーちゃん、ミケラ様にもしものことがあったらどうするのよ。転んであの可愛らしい手にケガでもしたらと思うと心配で心配で、今すぐ飛び出したい位なのに。あなたもそうでしょ?」
人の家の屋根の上で興奮するモモエル。
「モモエル様、何度も言ってますけどわたしのことをキティーちゃんと呼ぶのを止めて下さい」
キティー、15歳。
回復魔法の天才と呼ばれ、15歳にしてかなり高度な回復魔法を使うことが出来る。
最近、その才能を買われモモエルの研究所に招き入れられたのだが、見た目は12歳、しかもかなり発育不足の12歳に見えるので研究所員には「キティーちゃん」と呼ばれ、マスコット扱いされていた。
キティーはそれが嫌で仕方なかったのだ。
「いいじゃない、キティーちゃん。かわいい響きだと思うわよ」
「いやです、どこかの世界の仕事を選ばない先生みたいでいやなんです」
因みにキティーの柄はハチ割れ、おかっぱ頭に白いカチューシャを付けている。
どこかの世界の仕事を選ばない先生とは似ても似つかない、唯一似ているところがあるとすれば、尻尾の先にリボンを結んでいるところくらいだろう。
「それに、研究所には一つ目ちゃん2号も待機しているんですから、わたしの出番なんてないですよ」
モモエルは武茶士の話を参考にして、魔力で回るモーターとプロペラを作り、荷物運搬専用の一つ目ちゃん2号を作ったのだ。
しかも、用途に合わせたコンテナまで作って緊急発進まで出来るようにしたのである。
武茶士の話を聞いてそれほど経っていないのに、そこまで作り込むモモエルの才能恐るべしであった。
武茶士がその話を聞いたら、
「どこの国際救助隊だよ」
と突っ込んだだろうが。
「ふふん、やっぱり思考がお子ちゃまね。世の中にはこれで万全と言うことはないのよ、どんなに準備しても事件という奴はその上を行って起こる物なのよ」
モモエルが昔を思い出すように遠い目をして力説をした。
「本当に、サクラーノには泣かされたわ」
昔、タマンサの手助けをしようと子守を何度かしたことがあったのだ。
ミケラは割とおとなしくしてくれたが、サクラーノは元気いっぱいに動き回って何度も泣かされたのだった。
「それに、ここでミケラ様を見ていたら面白いモノが見られるかもしれないわよ」
「面白いモノ?」
キティーは何かしらと興味を持つ。
「それなら、もっと側に行ってみた方がよろしくなくて?」
その声を聞いた瞬間、モモエルはものすごい嫌な顔をした。
「そんなに嫌な顔をなさらなくてもよろしいんじゃなくて?」
「タマーリン様」
キティーは憧れの目でタマーリンを迎えた。
モモエルのことは良き上司として尊敬していたが、それ以上にタマーリンのことを敬愛していたのだ。
「嫌な顔もしますよ、魔法投影装置を勝手に持ち出したことで、わたしがどれだけ怒られたと思うの?」
あの後、王様や宰相に散々怒られたのだ。
「でも大叔母様・・・お妃様には褒められたでしょ?それに研究費も増やして貰ったし、増員もして貰ったでしょ?」
その増員でやってきたのがキティーなのだ。
キティーの回復魔法は精も根も尽き果てて動けなくなった研究員の、気力と体力を回復してくれていた。
下手なエナジードリンクより確実に回復でき、24時間どころか48時間は余裕で研究に打ち込めると研究員達にはめちゃめちゃ感謝されていたのだ。
「ぐっ」
モモエルは言葉に詰まった。
生真面目でお人好しのモモエルが性格の悪いタマーリンに口で勝てるわけはない。
それは6年前、15歳で魔法具開発研究所に招かれたモモエルに最初に与えられた仕事は、産まれて直ぐ、タマンサに預けられたミケラ王女の様子を見に行って、必要な支援をすることだった。
この命令を聞いたモモエルは、
「へ?」
と思わず言ってしまった。
15歳なったばかりの小娘に預けた王女の支援をしろという無茶振りである、驚く方が当たり前だった。
それほど、当時の王宮内は混乱し人材が枯渇していたのだが。
モモエルが驚いたのも最初だけ、元来の生真面目さが頭をもたげたのだ。
モモエルの良いところのもう一つは判らないことは判らないと素直に認め、判る人に教えを請えるところだった。
モモエルがパートナーとして選んだのは倉庫の女将。
人伝に倉庫の女将のことを知り、倉庫の女将に助言を求め、倉庫の女将と二人三脚で頑張ったのだ。
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