表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/72

042【挿話】ハイローミックスの過ち【外伝】

【今回は挿話です】


 座間駐屯地の執務室で、デスクに座りながらノートパソコンのキーボードを叩いていた明理が「あっ」と声を上げた。

 隣に座っていた男性自衛官が声をかける。「どうされたんです」

 明理が大きくなった自分のお腹をさする。「いま、お腹の子が、私のお腹を蹴ったの」

 そういって明理が笑う。

 男性自衛官もはにかむ。「産休、もう少ししたら入られるんでしたっけ?

 そんなにお腹が大きくなるまで頑張らなくてもよいでしょうに」

 明理は少し寂しそうに微笑む。「そうね、でも、この報告書は私にしかまとめられないと思うし、産休前にまとめておきたくて」

 男性自衛官は明理のノートパソコンをのぞき込む。「徹攻兵の小隊編成におけるハイローミックスの危険性、ですか」

 明理がうなずく。「そう、人は敗北からこそ、多くを学べるわ」

 男性自衛官は、少し意外そうに眉間にしわを寄せる。「あの戦いは、当初の作戦目標は達成しましたし、損失も最小限でした。

 敗北というには当たらないのでは」

 明理が、窓の外に視線を外す。「そうかも知れないわね。

 ただ。

 その損失がね、大きすぎたわ」

 明理の目には、キャンプ座間の林の木々が映っていた。

 

 レポートの要旨は次の通りだった。

 

 ――曰く――

 

 徹攻兵は二名で一分隊、二分隊の四名と後方に控える小隊長の五名で一小隊を組む。

 この時、直接戦闘に当たるのは小隊長を除く四名である。

 今次作戦においては、大隊全体の規模を整えるべく、小隊の構成に高世代型に対応している徹攻兵と、低世代型に対応している徹攻兵を組み合わせ、いわゆるハイ・ロー・ミックスの構成を取った。

 本資料の結論として、この構成は対徹攻兵戦において機動性を著しく低減させる危険性を訴えるものである。

 

 始めに、徹攻兵の運用の前提から振り返る。

 今更繰り返すまでもないことではあるが、徹攻兵の特殊性はその脅威の防御性にある。

 対人兵器を無効化し、対物兵器である機関砲でさえも、実際の戦線に投入される徹攻兵に関していえば効力を持たない。

 このため、通常時の戦闘において徹攻兵は、最前線の更に前、敵陣地の突破を期待されて投入される。

 これに互するには大量の、あるいは過大な火力、兵力を持って当たらざるを得ず、費用対効果の面で、通常兵器を持ってあたる側は大変大きな負担を強いられる。

 

 この問題に対する一つの解が、徹攻兵に対しては同じ徹攻兵を持って当たる用兵である。

 

 徹攻兵は攻撃面においても、極めて高い能力を示す。

 遠距離においては、高速徹甲弾であるAPFSDS弾で、運動中の人型の目標の部位を狙うことができ、近距離においては、その独特の光条武器を使用し、通常兵器で破壊できない徹攻兵の装甲をも破断する。

 この能力を活用し、初弾で装甲を破壊し、次弾で本体に損傷を与える、多対一の攻撃方法により、徹攻兵の最大の特徴である脅威の防御性を攻略することができる。

 古来より繰り返し主張されていることではあるが、こと戦闘においては数こそ勝利要件であり、遠距離戦においても、近距離戦においても、敵性徹攻兵を数で上回ることで、勝利を確実なものにすることができる。

 

 これは実際、先に展開された南洋戦役においても、本邦側徹攻兵がチームでの運用に当たり、複数徹攻兵が同一目標の同一部位を狙う「多対一」の戦い方を取ったことに対して、敵性徹攻兵側は戦局の終盤に至るまで各個単体での運用にあたり、その結果として、一対四以上の、圧倒的な戦力の数的不利にあった本邦側徹攻兵が、結果的に数的有利な状態を維持し、無傷で戦役を終えたことにもつながる。

 

 ここまでを整理すれば徹攻兵による対徹攻兵戦においても、数こそ勝利要件と解が導き出される。

 

 これを踏まえ、今次作戦においては、高世代型に対応している徹攻兵と、低世代型に対応している徹攻兵を組み合わせた。

 世代間の差は大きく、最も小さい世代差でも一世代差があり、甚だしきは第六世代型装甲服を着甲する徹攻兵と、第三世代型装甲服を着甲する徹攻兵が組み合わされ、世代差は、三世代に相当する。

 世代差は機動性の差を生む。

 そも、徹攻兵はミリ秒単位の時間で判断し、敵性徹攻兵からの攻撃を回避する。

 回避に当たっては、徹攻兵特有の光条推進が多用されるが、平均的な第四世代型装甲服でも八分間の連続推進が可能であるところ、第三世代型装甲服においてはわずか十秒程度と極めて短時間となる。

 十秒でも、単純な回避には十分有効ではあるが、連続した攻撃、集中される攻撃に対する回避に当たっては、有効時間を使い切ってしまう状態が散見された。

 徹攻兵は防御性、攻撃性だけでなく、常人と比較して極めて高い運動性も示し、それ自体は顕現者の体力に依存しない。

 しかし光条推進の連続推進を超えると、息切れの状態をおこし呼吸が安定するまで次の光条推進に入れない欠点を持つ。

 このため、敵性徹攻兵は特に低世代型を中心に攻撃してくるのに対し、同じ小隊の高世代型徹攻兵が、攻撃側の動きではなく、同じ小隊を構成する低世代型徹攻兵の支援のための動きにまわる状態がたびたび繰り返された。

 

 このように機動性の差から生まれる応戦状況への対応に加えて、徹攻兵の特有兵器である光条砲のうち、携行に適したハーフバレル砲の要素が加わる。

 第三世代型装甲服を着甲する徹攻兵は光条砲が運用できず、APFSDS弾を用いたラインメタルを運用することとなる。

 このラインメタルは徹攻兵が運用する場合、有効射程距離は四キロメートルから七キロメートルほどに至るところ、弾速は秒速一・五キロメートルから一・七五キロメートルほどである。

 これに対し第四世代型装甲服以降の装甲服を着甲する徹攻兵が運用するハーフバレル砲は、限界射程距離が一・九二キロメートルと短く、一方の弾速は秒速二キロメートルほどとAPFSDS弾より高速となる。

 まず、このハーフバレル砲を有効にするために、高世代型徹攻兵は、対徹攻兵間の戦闘距離としては中距離に当たる一・九キロメートル以下の距離にまで近づくことを要する。この段階ですでに高世代型徹攻兵と、低世代型徹攻兵の間では移動方法、移動速度に関して差異が生じるため、集団行動のために低世代型徹攻兵の移動速度に合わせることとなり、敵に先んじて有利な位置を取ることを困難にさせる。

 加えて中距離戦に入れた時も、高軌道型徹攻兵がハーフバレル砲で高速弾を撃ち込むのに対して、低世代型徹攻兵はAPFSDS弾という比較的低速弾を用いることにより、同一目標の同一位置を狙うという難度の高い戦闘においてタイミングを狂わせることとなる。

 これが時には、敵撃破のタイミングを失い、あるいは逆に敵性徹攻兵に余裕を与え、低世代型徹攻兵への攻撃集中を開始させる切っ掛けを産むこととなる。

 

 今般作戦においては、特務予備着甲科小隊のみ、第六世代型及び第五世代型と高い世代型の徹攻兵のみで小隊を構成した。

 この小隊は、敵性徹攻兵の伏兵が二五名ほど現れた時、とっさにその二名を撃墜するなど高い連携性を見せた、

 その後は敵味方の混乱の中で適切な目標を見失うと同時に、比較的不利な状況が続く一番二番、及び十一番十二番小隊の支援に分散させてしまった。

 これがもし、各小隊の世代間を狭め、高世代型装甲服を着甲する顕現者は一つの小隊にまとめ中距離戦に集中させ、低世代型装甲服を着甲する顕現者は一つの小隊にまとめて遠距離戦に集中させていたら、小隊ごとに、

 光条武器による近距離戦闘小隊、

 ハーフバレル砲による中距離支援小隊、

 APFSDS弾による遠距離支援小隊、など、

 小隊ごとの適切な距離関係での戦闘に集中することができ、武器差によって生まれるミリ秒単位の判断の混乱も回避できた可能性を指摘したい。

 今般作戦においては、小隊単位の狙撃訓練は熱心だっが、大隊を構成する小隊間の異なる距離間での戦闘想定が不足していたことは否めない。

 これに対して敵性徹攻兵は、戦場を特定した上で雪中に伏兵を構えるなど、より実際の戦闘を想定した訓練を繰り返していたことが高く予想され、彼我の想定の差、訓練の差が、戦役中盤の混乱を招いた要因となる。

 

 低世代型といっても、APFSDS弾は七キロメートル程度までは敵性徹攻兵の足を止めることに活用でき、弾着も小隊ごとに安定し、足の止まった敵性徹攻兵を、中距離狙撃小隊がハーフバレル砲で、直接照準で狙うなど、小隊間での役割支援を連携させたより大きな「多対一」の状況を作ることで、戦線を安定させ戦闘を安定させる効果が期待できる。

 このためには、中隊規模対中隊規模などのある程度規模の大きい訓練を繰り返し実施することで、各小隊が各々の役割を正しく理解し、より高次の連携において的を圧倒することを期待するものである。

 

 改めて結論に触れれば、敵性徹攻兵撃退に対しては、本邦側も徹攻兵を持ってせざるを得ず、戦闘に当たっては、常に数的有利な状況を維持しなければならない。

 この条件下においては、戦闘時の最小単位となる小隊はできるかぎり同世代型徹攻兵でまとめて、小隊単位での距離間、戦闘方法に合った運用を実施させることで数的有利な状況を維持し、敵性徹攻兵を各個撃破する効果を高く期待できるものと予測される。

 ハイ・ロー・ミックスは、小隊単位の小規模で行うのではなく、大隊規模の大規模で行うべきである。

 

 以上

 

 ――附記1徹攻兵の損害――

 

 徹攻兵は普段、その装甲を失う経験をしていない。

 これに対し遠距離攻撃の直撃弾は、その防御力のかなめとする装甲の脆化を招く。

 徹攻兵の使用武器は対人兵器としては過大に強力で、装甲を失った箇所に次弾を受けた場合、四肢の欠損や即死は免れず、徹攻兵の狼狽、恐怖たるや極度のものとなる。

 また、近接武器による攻撃は、同じ近接武器で受け損なった場合、即座に肉体の欠損を意味する。

 今次作戦において肉体に負傷を発生させたものは現れなかったが、実際、複数次のカウンセリングが必要になるなどメンタル面で非常に深い爪痕を残す結果になることに注意したい。

 これも、装甲の脆化を受けた徹攻兵は小隊間の後方に回し、装甲の無事なものが前線に立つなどの小隊間の支援により、安定的な運用を期待するものである。

 

 ――附記2しんがり戦に必用な冷静な判断――

 

 今次作戦の中盤における混乱を立て直すに当たり、我々は部隊の陣形を再構築すべく撤退戦の形を取った。

 この時、非常に高次の徹攻兵二名で構成される分隊を戦場の中央に配置し、敵性徹攻兵の攻撃を集中させた。

 古来より撤退戦においては、部隊の最後尾に当たるしんがりに強兵を置き、そのしんがり部隊が継戦する時間的有利の中で周囲の部隊が撤退を確実なものにすることで、兵数のいたずらな損耗を最小限にし、戦役全体の継続性を計るものである。

 この点において、特務分隊二名の参戦のタイミング及び位置、そして戦場全体を指揮する大隊長の撤退命令は全て有機的に融合され、結果として全投入兵力の二パーセントの損失で、九十八パーセントの兵力を維持することができ成功と賞賛されるべきである。

 かててくわえて、最終的に戦場に残った徹攻兵による自爆攻撃で、敵性徹攻兵の七十パーセント以上を無効化せしめたことは、作戦評価上極めて高く評価されるものである。

 敢えて附記すれば、今次作戦の目標達成に不可欠であったといえる。

 しかし先次大戦より繰り返されてきた自殺攻撃は、たとえ戦争といえども人の法に反する手段であり、今後絶対に繰り返されてはならない。

 本邦においては、着甲時強化現象発動時の通信用のクリスタルの破壊は厳しく禁止される措置が執られることを強く主張する。

 

 ――明理のレポートの要旨はここまでに留まる。――

 

 明理は、自分の作った報告書を何度か読み直し、細かい誤字を修正し文言を付け加える。

 もう、日は落ちていて、キャンプ座間の林もシルエットが映るだけになる。

 何度か、簡易な着甲試験の時に使われた林に雲の影が落ち、一瞬、九八式の誰かが飛び上がった錯覚を覚えた。

 夕焼けも落ちた赤黒い暗闇が、それもすぐに隠した。

 

【挿話はここまでです。】


 もし、お気に止まりましたら↓本編をご笑覧ください。


 https://ncode.syosetu.com/n4048gw/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ